産業技術総合研究所(産総研)は12月12日、GaNを用いた高電子移動度トランジスタとSiCを用いたPNダイオードをモノリシックに一体化した、ハイブリッド型トランジスタの作製および動作実証に成功したと発表した。
同成果は、産総研 先進パワーエレクトロニクス研究センター パワーデバイスチームの中島昭主任研究員、同・原田信介研究チーム長らの研究チームによるもの。詳細は、2021年12月11日から15日まで米サンフランシスコで開催されている半導体のデバイス技術とプロセス技術に関する世界最大級の国際学会「IEDM(International Electron Devices Meeting)」にて発表された。
電子機器の省エネを実現するためには、さまざまな機器の電力効率を高める必要がある。そのため、そうした電力エネルギーの変換・制御を行う電力変換器に使用されているパワートランジスタについても、さらなる技術革新が求められている。
パワートランジスタは、電力変換回路における電気的スイッチとして用いられることから、「高効率な電力変換を実現するための、スイッチオン状態における導通損失を減らす低いオン抵抗」、「スイッチング損失を減らすための、オンとオフの高速な切り替え性能」、「電力変換回路の異常動作時における、ノイズエネルギーの吸収源としての役割」の3つの性能が求められることとなる。
従来のSiトランジスタでは、これら3つの性能がほぼ材料的に限界に到達しているといわれるため、次世代半導体材料として、ワイドバンドギャップのGaNやSiCの活用が期待されている。ただし、従来のGaN高電子移動度トランジスタ(GaNトランジスタ)は、ソース電極とドレイン電極の間にPN接合が存在しないため、ボディダイオードがないことから、ノイズエネルギーの吸収源としての役割には向かなかった。そこで研究チームは今回、GaNトランジスタとSiCダイオードを同一の基板上に一体形成することで、そうした課題解決を目指したという。
その実現には、GaNとSiCの両者に対するデバイス試作環境が必要であったことから、産総研など3つの研究機関と東京大学など3つの国立大学が協力して運営するオープンイノベーション拠点「TIA」内のSiCパワーデバイスの100mm試作ラインを拡張。SiCとGaNの共用試作ラインとして立ち上げ、ハイブリッド型トランジスタの試作を行うことにしたという。今回はコンセプト実証として、小型デバイス(定格電流20mA程度)の試作が行われ、その動作確認に成功したという。
ハイブリッド型トランジスタは、SiC基板上にp型SiCエピタキシャル膜を結晶成長させた後、イオン注入によりp+型SiCとn型SiCによるダイオード構造を形成。それらの上部にGaNエピタキシャル膜とAlGaNバリア膜、GaNキャップ膜の3膜をエピタキシャルに成長させ、GaNトランジスタ構造を作製する流れでモノリシック化したものに、p+型SiC上のアノード電極と、AlGaNバリア層上のソース電極をつなぎ、n型SiC上のカソード電極と、AlGaNバリア層上のドレイン電極をつなげる形で作製されたという。
今回作製されたハイブリッド型トランジスタは、SiC側の耐圧をGaNに対してわずかに低く設計することで、SiCダイオードにおける非破壊のアバランシェ降伏が得られ、その降伏電圧は約1.2kVであることが確認された。また、非破壊のアバランシェ降伏が得られるので、複数回の掃引に対して、安定した可逆的降伏動作が確認できたとする。
一方、オン状態における通電特性に関しては、移動度の高い2次元電子ガスを通して電流が流れるため、300mA/mmの高いドレイン電流および47Ωmmと低いオン抵抗が確認できたという。
このほか、SiCは熱伝導率がSiの3倍と高いため、優れた放熱特性が得られることも特徴となっており、今回開発された技術は、次世代電力変換器の高効率化および信頼性向上につながると期待されるという。
なお、研究チームは今後、実際の変換器に利用可能な大面積デバイス(定格10A以上)の動作実証に取り組む予定としているほか、実証に成功したハイブリッド型トランジスタ以外にも、SiCとGaNの融合技術は、多くの可能性が期待されるとしており、さまざまなアイデアのコンセプト実証から量産試作への橋渡しに貢献し、企業共同研究についても積極的に模索していきたいとしている。