1998年に施行された「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(以下、電子帳簿保存法)が、2022年1月に大幅な改正を控えていることをご存じだろうか。PDFファイルとして受け取った請求書を紙に印刷して保存できなくなるなど、経理担当者のみならず多くの従業員の業務にも影響が及ぶ可能性がある。あと1カ月以内に迫った法改正で何が変わるのか。そして、法改正までに何を準備すべきかを、弥生のマーケティング本部で事業企画部に従事する谷口大介氏に話を聞いた。

※編集部注
文中の内容は、2021年11月取材時点のものです。12月10日に公表された令和4年度税制改正大綱の中で、2023年(令和5年)12月31日までの2年間は一定の要件下で引き続き電子取引を紙で保存することができるように経過措置を講ずる方針が示されました。

  • 弥生 マーケティング本部 事業企画部 次世代プロダクト企画部 アシスタントマネジャー 谷口大介氏

    弥生 マーケティング本部 事業企画部 次世代プロダクト企画部 アシスタントマネジャー 谷口大介氏

--「電子帳簿保存法」とはどのような法律なのでしょうか

谷口氏:まず原則として、企業の帳簿や決算書などは紙での保存が義務付けられています。電子帳簿保存法が施行された1998年はパソコンが一般的ではない時代だったこともあり、「条件をクリアした場合にだけ、特別に電子データで保存してもいいよ」というルールを定める法律として成立しました。まだまだパソコンが普及していない世の中だったので、当時はあまり使い勝手が良くなかったようです。

世間のデジタル化に伴って、電子帳簿保存法はこれまでにも何度か改正されているのですが、基本的には厳しい条件が徐々に緩和されてきた流れがあります。その中でも特に大きな緩和を迎えるのが2022年1月の法改正です。

一言で「電子帳簿保存法」と言っても、カバーしている範囲が広いので一度整理してみます。この法律が対象としているのは、仕訳帳や総勘定元帳などの『国税関係帳簿』、貸借対照表や損益計算書などを含む「決算関係書類」と請求書や見積書を含む「取引関係書類」が分類される『国税関係書類』、取引先との電子データ授受が発生する『電子取引』です。それぞれに対応する条項が異なりますので注意が必要です。

  • 電子帳簿保存法が対応する書類の区分 資料:弥生「電子帳簿保存法あんしんガイド」

--今回の「電子帳簿保存法」改正によって、何が変わるのでしょうか

谷口氏:大きな変更点は5つあります。緩和される向きの変更が4点と、規制される向きの変更が1点です。また、全体として不正行為に対するペナルティが強化される動きがあります。

  • 法改正に対応する書類の区分とポイント 資料:弥生「電子帳簿保存法あんしんガイド」

緩和される改正の1点目として、税務署長の事前承認制度が廃止されます。これまで、帳簿の電子保存やスキャナ保存は勝手に始めることができず、保存を開始する3カ月前に所轄の税務署長へ社内マニュアルと一緒に届け出て承認を得る必要がありましたが、法改正後は承認申請する際にマニュアルを一緒に提出する必要がなくなったので、事前準備が容易になります。

2点目としてスキャナ保存する場合の適正事務処理要件も廃止されます。これまでは、領収書などをスキャンして電子データで保存するために、適正事務処理要件として「受領後3日以内にスキャンする」「2人以上の従業員が確認する」といったマニュアルを社内で作成する必要がありました。これが廃止されます。

3点目はタイムスタンプ要件の緩和です。受け取った領収書などをスキャナで読み取る際に、国が認定した業者のタイムスタンプを3日以内に付与する必要がありましたが、法改正によってタイムスタンプ付与までの期間がおおむね2カ月以内に延長される上、訂正や削除ができないようなシステムを利用する場合にはタイムスタンプの付与が不要になります。

4点目として検索要件も緩和されます。これまでは国税関係の帳簿を電子保存する場合は取引年月日、勘定科目、取引金額、取引先の項目の記載が必須でした。さらに、これらの中から2つ以上の任意の項目で組み合わせ検索ができなければいけませんでした。一方で、法改正後には勘定項目の記載が不要になり、税務署の求めに迅速に応じられる場合には組み合わせ検索が義務ではなくなります。

  • 電子取引の保存要件を満たす具体的な方法例 資料:弥生「電子帳簿保存法あんしんガイド」

このように基本的には条件緩和される法改正ですが、規制される点として電子取引の書面出力保存ができなくなり、電子データで授受された取引情報は電子データでの保存が必要になります。つまり、取引先からメールやクラウドストレージサービスなどで受け取ったPDF形式の請求書や納品書を、紙に印刷して保存できなくなるのです。郵送などで紙で受け取った場合には紙での保存も可能です。

国税庁は、これまで通りに取引が正しく記帳されて申告に反映されていれば、電子データで保存していないことを理由にただちに青色申告の承認を取り消したり、金銭の支出がなかったものと判断したりすることはないとしていますが、対応を進める努力が必要です。

--「電子帳簿保存法」改正までに、企業は何を準備すべきでしょうか

谷口氏:先にも述べましたが、基本的には規制が緩和されるような法改正ですので、紙で作成された帳簿や紙でやり取りされた書類をこれまで通り紙で保存するのは問題ありません。テレワークの導入など会社の状況に応じて電子保存に取り組みやすくなりました。

一方で、電子取引は書面出力保存ができなくなりました。これまではECサイトなどで購入した物品の納品書や領収書を印刷して保存できましたが、来年以降は禁止されます。例えば、現場担当者が経費立替払いでECサイトで物品を購入した場合などに気をつけてください。

法改正に伴って専用のソフトウェアを導入する必要はないと考えています。しかし、法改正に伴う業務フローは検討しておく必要があるでしょう。業務手順を定めて現場担当の社員まで共有するための期間が大事だと思います。

例えば、営業部の担当者などは取引先から請求書を受け取る機会があると思います。PDF形式で受け取った請求書なのに、法改正のことを知らない営業社員が紙に印刷して経理部に提出した時を想像すると、経理の方にとっては請求書の原本が紙なのか電子データなのかは分かりませんよね。このように、全社員が理解していないと業務が滞る場合が想定されます。また、知らないうちにデータでの保存義務に反してしまうリスクも生じます。

法改正まで1カ月を切りましたので、まずはどのような業務運用とするかを定めて社内への周知と徹底に尽きると感じます。

  • 「法改正後の移行期間や猶予期間が定められていないので、まずは社内への周知と徹底が必要となる」と話す谷口氏