宇宙航空研究開発機構(JAXA)、名古屋大学(名大)、金沢大学(金大)、京都大学(京大)、九州工業大学(九工大)の5者は12月10日、宇宙空間においてプラズマの波が、イオンとの相互作用を介して別の波へと変わる様子を観測することに成功したと発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所の浅村和史准教授、名大 宇宙地球環境研究所の小路真史特任助教、同・三好由純教授、金大の笠原禎也教授、東北大の笠羽康正教授、同・熊本篤志准教授、同・土屋史紀准教授、金大の松田昇也准教授、京大の松岡彩子教授、九工大の寺本万里子助教、台湾中央研究院の風間洋一訪問研究員、JAXAの篠原育准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米物理学会速報誌「Physical Review Letters」に掲載された。
地球・惑星周辺の宇宙空間には、太陽風や銀河宇宙線など、さまざまなイオンや電子、陽子などの荷電粒子が飛び交っている。ただしその量は希薄なため、衝突はほとんど起きないという。
一方、地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)では、低エネルギーのイオンや電子が豊富に存在するプラズマ圏、10~100keV程度の熱い粒子で主に形成される「リングカレント域」、また相対論的な超高エネルギー粒子が捕捉されているバン・アレン帯などが重なり合うように存在している。
そして、それぞれの領域は、構成する粒子が増減を繰り返したり、領域の形状が変化したりするなど、ダイナミックに変動している。これらの変動の理由は完全解明されておらず、その説明のためには異なる領域間における結合を考える必要がある。その結合メカニズムを担う候補として、電波を介したエネルギーの流入・流出が考えられている。
2016年にJAXAが打上げたジオスペース探査機星「あらせ」は、バン・アレン帯を構成する超高エネルギー電子が生成・消滅を繰り返すメカニズムを、直接観測によって解明することを目的の1つとしている。研究チームは今回、あらせを活用し、イオンと電波の間のエネルギーのやり取りを観測的に導出する新たな手法の開発に取り組むことにしたという。
今回開発された解析手法は「波動粒子相互作用解析」と呼ばれる、電波とイオンの運動を詳細に対応づけることで、電波とイオンがやり取りするエネルギー量を明らかにするものだという。
具体的には、あらせに搭載された低エネルギーイオン質量分析器(LEPi)と波動観測器(PWE)、磁場観測器(MGF)の15.6ミリ秒ごとの観測データを用いることで、観測タイミング、イオンのエネルギー、そして運動方向ごとに整理されたデータひとつひとつと、同じタイミングで観測された電波の電界との対応を取っていくことに成功したという。
電波の周波数スペクトルと水素イオンのエネルギースペクトルの解析により、11Hz付近のピークは高周波電波(磁気音波)、2Hz付近のピークは低周波電波(電磁イオンサイクロトロン波)であることが判明。そのほか、0.1keV程度の冷たい水素イオンのフラックスが増大していることなども確認された。
また、電波の周波数スペクトルと水素イオンのエネルギースペクトルに「波動粒子相互作用解析」を適用することにより、それぞれの電波と冷たいイオンのエネルギー輸送量も把握された結果、エネルギー輸送の向きに変動があるものの、全体的には高周波電波(磁気音波)が冷たいイオンにエネルギーを与える、すなわちイオンの加熱が起きていることが確認されたという。
その一方で、冷たいイオンから低周波電波(電磁イオンサイクロトロン波動)へのエネルギー輸送もはっきりと検出され、低周波電波が発生・成長していることも確かめられたという。
高周波電波(磁気音波)は、10keV程度のエネルギーを持つイオンによって生成されると考えられている。今回の研究により、これまで考えられていなかった高周波電波(磁気音波)→冷たいイオンの加熱→低周波電波(電磁イオンサイクロトロン波)の発生と成長→「プロトン(陽子)オーロラ」の発生、という電波とイオンの連鎖反応によるエネルギーの流れが宇宙空間に確かに存在することが実証されたとする。
なお、今回の研究で開発された手法については、2022年に打上げられる予定の欧州・日米の国際共同木星氷衛星探査ミッション「JUICE」でも活用される計画だとのことで、この手法を用いることで、宇宙に存在するさまざまな種類の電波とイオン・電子との間のエネルギー輸送、さらには多様なエネルギーを持つイオン・電子が同時に存在している理由を解明していくことが期待されるとしている。