東北大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は12月10日、「量子井戸間の共鳴トンネル効果」を利用した新しい原理で動作する「モットトランジスタ」を開発したと発表した。

同成果は、KEK 物質構造科学研究所の湯川龍特任助教(現:大阪大学大学院工学研究科 助教)、同・小林正起特任助教(研究当時)、東北大 多元物質科学研究所の神田龍彦大学院生、同・志賀大亮助教、同・吉松公平講師、産業技術総合研究所 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センターの石橋章司上級主任研究員、KEK 物質構造科学研究所の簑原誠人特別助教(研究当時)、同・北村未歩助教、同・堀場弘司准教授(研究当時)、パリ・サクレー大学のアンドリュー・フェリペ・サンタンデール-シロ准教授、東北大 多元物質科学研究所の組頭広志教授(KEK 物質構造科学研究所 特別教授兼任(研究当時))らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

モット絶縁体における電気を流さない「電子固体」と、電気を流す「電子液体」の間における電子相転移(モット転移)を利用してOn/Offを切り替えるモットトランジスタは、新たな動作原理の「Beyond CMOS」の有力候補の1つとして研究開発が進められている。

モットトランジスタにおいては、これまで電界効果型トランジスタ(FET)構造を用いた開発が行われてきたが、モット転移を引き起こすために必要な静電キャリア数が通常の半導体FETに比べ1桁以上大きいため、動作に大きな電圧を必要とするという課題があった。

そこで研究チームは今回、酸化物二重量子井戸構造を設計・作製。量子井戸内の量子化準位間の共鳴トンネル効果を制御することで動作するという、新しい原理のトランジスタを提案し、実際にその原理検証を実施することにしたという。

  • モットトランジスタ

    共鳴トンネル効果による金属・絶縁体転移の概念図 (出所:共同プレスリリースPDF)

この新しい原理のトランジスタにおいて鍵となるのが、原子レベルで精密に酸化物量子井戸構造を作製することと、実際にモット転移を可視化することの2点であり、それを実現するために今回、モット絶縁体状態にある量子井戸層(QW1:モット転移量子井戸層)/バリア層/金属量子井戸層(QW2)からなる酸化物二重量子井戸構造を作製し、高輝度放射光を用いてその量子化状態の可視化が行われた。

その結果、モット転移量子井戸と金属量子井戸との間の共鳴トンネル効果によって、モット転移量子井戸層に金属・絶縁体転移が誘起されることが見出されたほか、詳細な理論計算から、このモット転移が、エネルギー的に近い量子化状態同士の共鳴トンネル効果により引き起こされている現象であることが確かめられたという。この結果について研究チームでは、二重量子井戸構造における共鳴トンネル現象を制御することで、モット転移を利用した新たな原理によるトランジスタ動作が実現できることが示されているという。

  • モットトランジスタ

    共鳴トンネル効果を用いたモットトランジスタの原理検証結果 (出所:共同プレスリリースPDF)

なお、この共鳴トンネル効果型モットトランジスタは、モット転移を利用することからOn/Off比が高いという利点に加えて、「量子化準位差(数100mV程度)のわずかな電圧印加により動作する」、「量子化準位を利用するため設計の自由度が高い」、「キャリア蓄積が不要のため高速に動作する」といった利点もあることから、将来のデバイスの基本素子構造となる可能性があるとしているほか、基礎研究の側面からも、酸化物ナノ構造による強相関電子の波動関数・量子化状態制御を可能にした今回の研究における意義は大きく、今後の量子物性研究にも貢献することが期待されるとしている。

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    共鳴トンネル効果を用いた新しい原理のモットトランジスタ (出所:共同プレスリリースPDF)