経費精算をしなくてもいい時代がやってきた、と聞いて信じられるだろうか。
これまで、企業にとって経費精算は欠かせない業務の1つだった。経理担当の下に日々届けられる大量の領収書を確認し、適切に処理するというフローはどの企業でも当たり前のように行われていることだ。
そんな経費精算業務に革新が起きようとしている。旗を振るのは出張・経費管理クラウドサービスを提供するコンカーだ。同社は「経費精算のない世界」を目指し、障壁となる法制度改革のために政府に働きかけを行うなど、環境面での整備も進めている。
もっとも、経費精算のない世界を実現するのはそう簡単な話ではない。なぜなら、多くの企業は長年にわたって決まった経費精算プロセスを踏襲しており、並大抵のことでは変革に手を着けたがらないからだ。社員数が多く、経費精算処理が煩雑になる大企業であればなおさらである。
そんな状況の中で、コンカーが提供する出張・経費管理クラウド「Concur Travel & Expense」を導入し、経費精算のDXに踏み切ったのが東急である。同社は2020年12月にConcur Travel & Expenseを導入し、子会社も含めた連結グループ全体の経理業務のデジタル化とペーパーレス化に取り組んでいる。
東急はなぜConcur Travel & Expenseを導入したのか。導入を進めるにあたり、どのような壁に阻まれ、どのようにして乗り越えたのか。
導入を主導した、東急 財務戦略室 経理マネジメントグループ 連結経理体制最適化プロジェクトチームでプロジェクトマネージャーを務めた島田龍之氏と、東急担当営業であり、コンカーで大手企業担当部門の部長を務める簗瀬太祐氏に話を聞いた。
東急は、なぜコンカーを選んだか?
東急は136社の連結子会社と、2万人を超える従業員を抱える巨大企業だ。東急電鉄をはじめとする交通事業や不動産事業のほか、百貨店やチェーンストアなどの生活サービス事業、東急ホテルズなどのホテル・リゾート事業などを展開している。
複数あるコア事業の相乗効果により、民営鉄道の中ではトップレベルの利益水準を誇る同社は、中期経営計画“Make the Sustainable Growth”で掲げた「ワークスタイル・イノベーションの進化」を実現すべく、働き方改革を推進。コロナ禍により厳しい事業環境 ではあったが、テレワークの拡大でペーパーレス化へのニーズが高まったことから検討を進め、Concur Travel & Expenseの導入を決めた。
「実は当時、連結子会社の会計システムを共通化するプロジェクトが走っていました。ただし、その共通会計システムは、社内のネットワークからでなければアクセスできない仕様でした。この仕様が、立替経費の処理には適していないと感じたのです」(島田氏)
支払業務や決算業務などは社内で行うので、社外からアクセスできなくても問題はない。しかし、従業員が日常的に行う経費精算だけは外出先からスマホで行えたほうがいいだろうと島田氏は考えた。
「経費とはその多くが外出先で使うものです。移動先から会社に戻ってくる時間を利用して経費精算を行えれば、業務が大きく効率化できます。移動するだけだった時間にビジネス上の価値を付加できるのです」(島田氏)
複数の経費精算システムの比較検討を行った結果、島田氏が選んだのがコンカーだった。他の類似システムと比較して、コンカーの導入コストは決して安くない。それでもコンカーを選んだのにはいくつかの理由があったという。
「コンカーは、経費精算の電子化に向けた規制緩和を主導しており、政財界に対しても積極的に働きかけを行っています。コンカーと一緒に経費精算のクラウド化に取り組むことは、“法律と一緒に走っていく”ということだとも言えるのです」(島田氏)
コンカーが政財界にアプローチするのは、目指すべき「経費精算のない世界」を実現するには法制度の変革がマストだからだ。「こうあるべきという世界に、国の法制度を近づけていかなければなりません」と話すのは、同社の簗瀬氏である。
「例えば、日本では数年前まで、電子化した領収書は証憑として認められていませんでしたが、今は認められるようになりました。現在であれば、複数税率の混在などが問題になっています。経費精算には電子帳簿保存法や消費税法など多くの法律が絡んでいるので、それらを一つ一つ変えていく必要があるのです」(簗瀬氏)
東急がコンカーを選んだ理由はほかにもある。規模や業種に関係なく、多種多様な企業がコンカーを導入している点だ。自らも鉄道やまちづくりなど、多岐にわたる事業を展開している東急にとって「業界の“壁”がないコンカーはとても魅力的だった」と島田氏は語る。
価格だけを見ればコンカーよりも低コストなシステムは存在する。しかし、低コストということは、人がケアしなければならない箇所が多いということでもある。しかし、「利用する従業員だけでなく、経費精算システムを運用するバックオフィスの業務も軽減できるものでなければならない」と島田氏は考えていた。
こうして、東急における経費精算システムの改革がスタートしたのである。