岩手医科大学(岩手医大)は12月8日、岩手県北地域コホート研究グループが実施した岩手県北地域コホート研究の10年間の追跡データを用いて、牛乳摂取頻度と脳卒中発症リスクとの関連を解析した結果、牛乳の摂取が脳卒中を予防する可能性があることを明らかにしたと発表した。

同成果は、岩手医大 衛生学公衆衛生学講座の丹野高三特任教授、岩手県北地域コホート研究グループの共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学を題材とした学術誌「Nutrients」に掲載された。

日本人の牛乳摂取習慣は、第二次世界大戦後、学校給食への導入を機に全国に広まった比較的新しいものであるため、日本人成人の摂取量は欧米人と比べると少ない状況だという。また、日本人と欧米人の疾患構造を見ると、欧米人では心筋梗塞リスクが高いのに比べ、日本人では脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中リスクが高いことがわかっている。

これまで日本人を対象とした研究において、脳卒中が原因で死亡するリスクに牛乳摂取が及ぼす影響についての報告が行われているが、脳卒中発症に及ぼす影響については報告されていなかったという。そこで研究チームは今回、牛乳摂取と脳卒中発症リスクとの関連を明らかにするため、岩手県北地域コホート研究の10年間の追跡データを用いた解析を実施することにしたという。

岩手県北地域コホート研究とは、脳卒中や心疾患、要介護状態の危険因子を明らかにすることを目的とし、岩手県の二戸、久慈、宮古地域で市町村が実施した集団健診を受診した人のうち、今回の研究への参加に書面にて同意した人を対象として、2002年から現在まで継続実施されているコホート研究である。

今回の研究では、同コホート研究に参加した1万4111名に対し、コップ1杯の牛乳を飲む頻度について、58項目の食品の摂取頻度をアンケート形式で回答する「食物摂取頻度調査法」を用いた調査が行われた。回答結果に基づいて、研究参加者を「週2杯未満」、「週2杯以上7杯未満」、「週7杯以上12杯未満」、「週12杯以上」の4グループに分類。そして脳卒中の発症については、岩手県が岩手県医師会に委託して1991年より開始した、岩手県内の医療機関で診断された脳卒中について、医療機関が「脳卒中患者登録票」により、岩手県医師会に提出して収集が行われている岩手県地域脳卒中登録事業のデータと研究参加者のデータを照合することで確認が行われた。

収集されたデータをもとに、牛乳摂取頻度と脳卒中発症リスクとの関連を明らかにするために、牛乳摂取頻度が週2杯未満のグループにおける脳卒中発症リスクを1とした場合の、週2杯以上7杯未満、週7杯以上12杯未満、週12杯以上の各グループの脳卒中発症リスクが計算されたところ、脳卒中のうちの脳梗塞の発症リスクについて、女性では牛乳摂取頻度が週2杯未満のグループに比べて、週7杯以上12杯未満のグループで47%のリスク低下が見られたものの、男性では統計学的に有意なリスクの減少は見られなかったという。

研究チームでは、牛乳摂取が脳梗塞発症リスクを低下させる理由としては、以下の2点が考えられるとする。

  1. 牛乳を飲む人の健康的な生活習慣・食習慣による影響
  2. 牛乳に多く含まれる栄養素による降圧作用などの影響

1つ目については、今回の研究においても、牛乳を飲む人では牛乳を飲まない人(週2杯未満)に比べて、タバコを吸う人や大量飲酒をする人が少なく、習慣的に運動している人、魚・大豆タンパクや野菜・果実を多く摂る人が多い傾向が見られたとする。喫煙や大量飲酒は脳卒中の危険因子であり、運動習慣、魚・大豆タンパクや野菜・果実摂取は脳卒中の予防因子として知られている。牛乳を1日1杯飲む人の健康的な生活習慣・食習慣が、脳卒中発症リスク低下に影響した可能性が考えられるとしている。

2つ目については、牛乳に多く含まれるミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム)に血圧を下げる効果があることが知られている。高血圧は脳卒中の危険因子であり、今回の参加者も、牛乳を飲む人では牛乳を飲まない人(週2杯未満)に比べて、血圧が低い傾向が見られたとした。牛乳に含まれるミネラルによって血圧上昇が抑制され、脳卒中の発症リスクが低下した可能性が考えられるという。

一方、男性で明確な関連が見られなかったことについては、男性は女性に比べ、牛乳摂取以外の脳卒中の危険因子(喫煙や大量飲酒)を持っている人が多かったため、牛乳摂取による脳卒中発症への影響を見出しにくかった可能性があるとしている。男性の牛乳摂取と脳卒中発症リスクとの関連を明らかにするためには、さらなる研究が必要としている。

また今回の研究の限界として、今回用いられた食物摂取頻度調査票では、牛乳摂取量を定量的に見積もることができなかった点が挙げられるとしているほか、牛乳の至適摂取量を明らかにするためにはさらなる研究が必要であるとしているが、コップ1杯は通常150~200mlであるので、それを目安とするのがいいだろうとしている。

  • 牛乳

    牛乳の摂取頻度別の脳梗塞発症リスク。調整因子:年齢、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、野菜・果実摂取、魚・大豆タンパク/肉タンパク比、BMI、収縮期血圧、HbA1c、総コレステロール、HDLコレステロール、降圧薬使用、閉経(女性の場合) (出所:岩手医大プレスリリースPDF)