東北大学は12月8日、代表的な酸化物系固体電解質である「酸化セリウム」を900℃以下という低温で焼結する条件と、そのメカニズムを解明したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の石井暁大助教、高村仁教授らの研究チームによるもの。詳細は、無機材料を扱う学術誌「Acta Materialia」に掲載された。
酸化物などのセラミックスからなる固体電解質を用いた全固体電池や燃料電池、水素製造セルなどは高い効率を示す一方で、その製造には固体電解質となるセラミックスを1500℃程度の高温でひび割れなく焼結させる必要があり、そのためには膨大な電力と時間を要するため、本格的な普及は進んでいない。
この解決に向け、さまざまな手法が考案され、例えば簡単かつ迅速に固体電解質を生産するための手法として、3Dプリンティングとレーザー焼結法を組み合わせた付加製造が試みられているものの、固体電解質の焼結温度の高さがネックとなり、密度が向上しなかったり、熱応力により割れてしまったりするなどの課題があるという。
また、固体電解質の焼結温度の低温化を目指し、さまざまな研究が進められてきた。代表的な固体電解質である酸化セリウムでは、微量のリチウム添加が焼結温度の低温化に有効であることは知られていたが、研究チームごとに得られる効果や結論が異なっており、酸化セリウムの低温焼結が可能になる条件やメカニズムはよくわかっていなかったという。
そこで研究チームでは今回、リチウムを微量添加して低温焼結した酸化セリウムの組成と微細組織の精密な分析を実施。その結果、リチウム添加酸化セリウムにはシリコンとアルミニウムが含まれており、リチウム・シリコン・アルミニウムは酸化セリウム粒子の結晶粒界に存在していることが確認されたという。
また、熱力学シミュレーションにより、このリチウム-シリコン-アルミニウム(Li-Si-Al)系酸化物の融点は855℃と、金属並みに低いことが判明。酸化セリウムの低温焼結メカニズムには、この低融点の酸化物融液の出現が重要な役割を果たしていることがわかったとする。
これまで研究チームごとにリチウム添加の最適量や効果が異なって観測されていた理由としては、酸化セリウムの熱処理過程で、酸化アルミニウムを多量に含む耐火物容器から意図せず導入されるアルミニウムの量が異なっていたためと考えられるとしている。
なお研究チームでは、今回の知見を活用することで、3Dプリンティングなどの付加製造による燃料電池・水素製造セルや全固体電池の高速作製が期待されるようになるとしているほか、Li-Si-Al系酸化物融体は、酸化セリウム以外の焼結困難な酸化物の低温焼結にも広く応用できる可能性も期待されるとしている。