量子科学技術研究開発機構(量研)は12月7日、高性能イオン伝導体をリチウム(Li)分離膜とした超高純度(99.99%)のリチウム回収技術「イオン伝導体リチウム分離法(LiSMIC)」を活用して、車載用リチウムイオン電池(LIB)から電池原料の超高純度リチウムを安価に回収できること確認したことを発表した。

同成果は、量研 量子エネルギー部門 六ヶ所研究所 増殖機能材料開発グループの星野毅上席研究員らの研究チームによるもの。

リチウムイオン電池の応用範囲が拡大する一方、その産出国には偏りがあり、十分な量を輸入できなくなる可能性などが指摘されている。そのため、輸入に頼らなくても安定して確保する手法の確立が求められ、海水中から抽出する方法なども考えられているほか、使用済みリチウムイオン電池のリサイクルも検討されている。しかし、現状の技術で、車載用リチウムイオン電池をリサイクルしようと思うと、コスト高となってしまい、現実的ではなかったという。そのため、事業として採算が取れるだけのコストでリサイクルを実現できる新たな技術の開発が求められていた。

すでに量研では、核融合の研究開発において、その燃料としてリチウムが必要となることから、リチウムイオン伝導体を分離膜に用いることで、リチウムを高純度の水酸化リチウム水溶液として回収できること、ならびに副産物としての水素発生、排CO2ガス吹き込みで電池原料となる炭酸リチウムの生成も可能とするリチウム回収技術「LiSMIC」を開発済みで、これまでイオン伝導体1枚を用いた実験装置で、その有効性の確認を進めていた。

  • リチウム回収

    使用済みリチウムイオン電池からのリチウム回収の現状および今回の新規提案 (出所:量研Webサイト)

今回の取り組みは、この技術開発の延長にあたるもので、コスト実証に向け、実際のリチウム回収プラントの実操業形態に近い、イオン伝導体を20枚装荷し、長期間の試験中、高度に印加電圧、温度および流速などの制御が可能なプラント設計検討用リチウム回収装置を新たに開発。最適条件でリチウム回収試験を行ったところ、14日間で原液50Lに含まれていたリチウム約30gの8割を回収することに成功したという。この回収速度は、表面リチウム吸着処理を施していないイオン伝導体を同条件で試験した場合と比べると約13倍に相当するという。

  • リチウム回収

    量研で開発されたLiSMICによるリチウムイオン電池のリサイクル模式図 (出所:量研Webサイト)

また、この結果に基づき、電池原料となる水酸化リチウムを、2025年に廃EVなどから回収可能なリチウム量に相当する年間2000tを使用済みリチウムイオン電池水浸出液から製造した場合のコストを試算したところ、輸入価格(2020年度貿易統計の輸入平均価格1287円/kg)を下回るコストが算出されたとするほか、水浸出液のリチウム濃度をブラックパウダー中のリチウムが水浸出液に溶ける最大濃度まで高めると、輸入価格の半分以下の製造原価で回収できることも判明。加えて、同技術で得られるリチウムは輸入で得られるものよりも高純度(99.99%)であるという原理的な優位性も示されたとする。

  • リチウム回収

    今回の試験のために新たに開発されたプラント設計検討用リチウム回収装置 (出所:量研Webサイト)

さらに、この技術そのものも低CO2排出技術であるだけでなく、排CO2ガスを用いて電池原料となる炭酸リチウムを直接製造することも可能であるため、製造からリサイクルまでに排出するCO2をゼロにすることが求められる「ライフサイクルアセスメントCO2ゼロ」にも貢献できるとしている。

なお、量研では、今回の技術は、リチウム含有溶液に広く適用可能であることから、リチウムの供給源となっている塩湖かん水からのリチウム回収の実用化を目指した研究開発も進めているとするほか、将来的には、海水からのリチウム回収技術の確立へとつなげていきたいとしている。