大阪大学(阪大)は12月7日、自閉スペクトラム症や学習障害をはじめとした発達障害に関連する遺伝子の欠損により、網膜・視覚機能が異常を示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、阪大 蛋白質研究所の古川貴久教授、同・茶屋太郎准教授、専修大学人間科学部心理学科の石金浩史教授、阪大 免疫学フロンティア研究センターの奥崎大介特任准教授(常勤)、阪大 微生物病研究所の元岡大祐助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、ヒトの分子遺伝学的疾患メカニズムを扱う学術誌「Human Molecular Genetics」に掲載された。
注意欠陥・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの発達障害がある子供や大人において、視覚や聴覚に対する感覚の異常(過敏や鈍麻)が現れることが知られている。例えば、「精神障害の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」では、ASDの診断基準として「感覚過敏や感覚鈍麻、環境の感覚的側面に対する普通以上の関心」という感覚の異常が加えられている。しかし、発達障害に伴う感覚異常の原因やメカニズムについてはよくわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、発達障害に関連する遺伝子「CYFIP2」に変異が認められる人において、一定の割合で視覚に異常が見られることが報告されていることを踏まえ、Cyfip2を網膜において欠損させたマウス(Cyfip2 CKOマウス)の網膜・視覚機能の解析を実施。その結果、網膜の層構造や細胞の構成に通常マウスとの大きな違いは見られなかったものの、網膜におけるトランスポーターやチャネルなど、神経細胞の活動に関与する遺伝子群の発現が、変化していることを確認したという。
詳細な調査から、Cyfip2が欠損した網膜においては、光に対して強く持続した応答を示す神経節細胞が増加していることが判明したほか、Cyfip2の欠損により個体レベルの視力に異常が生じることも判明。研究チームでは、これらの結果から、人のCYFIP2遺伝子の変異と関連した視覚異常のメカニズムに対する知見が得られたとしている。
なお、今回の成果について研究チームでは、発達障害でしばしば見られる視覚の過敏や鈍麻が、網膜神経回路の機能的変化によって生じる可能性が示唆されたとしており、将来的には感覚器に着目した、発達障害に対する診断法や治療法の開発につながることが期待されるとしているほか、発達障害や認知症を含む脳機能異常の研究において、脳だけでなく感覚器にも着目するという、新たな研究の潮流を生むことも考えられるとしている。