食後に活性化して食欲を抑える働きのある神経細胞が脳の視床下部の「背内側核」という部分にあることを突き止めた、と北海道大学の研究グループが発表した。同グループはこの神経細胞の活動を人工的に増やすと食事量が低下したことも確認した。肥満の予防・治療開発への貢献が期待できるという。
研究グループによると、北米、欧州諸国などでは2030年までに国民の60%近くが肥満になるという試算があり、肥満対策は心臓病や脳卒中予防の観点からも重要だ。食欲の調節は肥満解消のためにも大切で、脳の視床下部が食欲を調整することは古くから分かっていた。しかし全身代謝や体温、食欲などを司る視床下部のどの部分の神経細胞がどのような仕組みで食欲を調節するかなど、詳しいことは十分解明されていなかった。
北海道大学大学院獣医学研究院の戸田知得助教らの研究グループは、活性化した神経細胞を蛍光タンパク質で標識できるマウスを作ることに成功。このマウスを使って食後に視床下部のどの部分の神経細胞が活性化するかを調べた。
実験マウスに餌を一晩与えず、空腹になったマウスに餌を与えて30分後、1時間後、2時間後にそれぞれ活性化している神経細胞を蛍光タンパク質で標識した。すると1時間、2時間後に視床下部の背内側核と呼ばれる領域で活性化する神経細胞が増加したことが分かった。これまで満腹中枢と言われていた視床下部の腹内側核、弓状核と呼ばれる領域を含めて背内側核以外の神経細胞に変化はなかった。
研究グループがさらに、神経細胞の活動を人工的に増加、減少させる「DREADD」と呼ばれる技術でマウスの背内側核の神経細胞を活性化させたところ、マウスの食事量は有意に低下した。逆に同じ神経細胞の活性を抑えると食事量が増加した。
またこの神経細胞を活性化させるとマウスの場所嗜好性が変化することも判明したことから、同グループはこの神経細胞が心地良さといった感情などにも関係している可能性があるとしている。
研究グループによると、今回の研究成果は正常体重のマウスがどのように満腹感を感じるかについて神経メカニズムの一部を解明したことを意味し、食べ過ぎによる肥満防止や拒食症対策などに応用することも期待できるという。
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