すばる望遠鏡(国立天文台)はハワイ現地時間の12月5日、銀河団に属する銀河が銀河団内を移動する際に「向かい風」のようにして受ける高温ガスが、銀河団に数多く存在する星の数が少なくて淡く広がった「超淡銀河」の形成に大きな役割を果たしている様子が、同望遠鏡の広視野画像などを用いた研究から明らかになったと発表した。
同成果は、ロシア、アメリカ、日本、フランス、アラブ首長国連邦の研究者からなる国際研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
超淡銀河は、非常に薄く広がった銀河で、天の川銀河と比べるとおよそ100分の1以下の星しか含まず、新たな星形成も見られないことが特徴とされている。その大きさや形はさまざまで、矮小楕円銀河のように丸くて滑らかな形もあれば、ほかの銀河との相互作用で歪んだ形をしているものもある。かみのけ座銀河団では約1000個の超淡銀河が発見されており、同銀河団の約8割を、超淡銀河と矮小楕円銀河が占めてると考えられている。
これほどありふれた存在でありながら、超淡銀河の起源と進化はまだよく理解されていない。矮小楕円銀河と同様に、超淡銀河も初期の宇宙で形成された後、ほかの銀河との合体による成長がなかった銀河という可能性がまず考えられている。
また、初期の星形成で発生した超新星爆発によって銀河が膨張し、その後の星形成が阻害された可能性も考えられるとする。さらに、銀河団の高温ガスによる向かい風や、ほかの銀河との遭遇による潮汐力も同様の役割を果たした可能性があるほか、最初から超淡銀河になるような特異な性質があった可能性も考えられるなど、複数の説が唱えられている。
そうした中、研究チームが今回着目したのが、超淡銀河の前段階と考えられる薄く広がった銀河。かみのけ座銀河団とAbell2147銀河団の銀河カタログから、爆発的な星形成が終わったあとの平均年齢が15億年以下の比較的若い星から構成されている、薄く広がった11の銀河を選出。すばる望遠鏡の主焦点カメラSuprime-Cam(シュプリーム・カム)とHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)のアーカイブ画像に加え、米・アリゾナ州ホプキンス山にあるMMT観測所の口径6.5mマルチミラー望遠鏡を用いた分光観測で、銀河の形状や周辺の様子と銀河内の星の性質が調べられた。
すばる望遠鏡による画像調査の結果、銀河団ガスの向かい風によって銀河ガスがはぎ取られたことを示す「尾」のような構造が、どの天体にも付随していることが判明したほか、MMT望遠鏡による分光観測から、それぞれの銀河における星形成の歴史が推定された。
これらの結果を合わせることで、新たなシナリオとして、これらの銀河は約120億年前に形成され、約10億年前から2億年前にかけて、銀河団の中心領域に向かって落下(移動)する際、銀河団ガスの向かい風によって、爆発的な星形成が誘発されるとともに、銀河ガスのはぎ取りが起こったというものが提案されることとなったとする。
ガスのはぎ取りや星形成が進んで銀河内のガスが消費されると、星形成は停止してしまう。11個の銀河はどれも、このようにして形成されたと推測されるという。これから先、新たな星形成がないまま数十億年がたつ間に、星が次々と死んでいくことで銀河は暗くなっていく。そして、長い時間の間に星の数が減少していき、場合によってはほかの銀河との相互作用を受けることで薄く広がり、最終的には超淡銀河や矮小楕円銀河になると考えられるという。
なお研究チームでは、今回の統計的な推定から、かみのけ座銀河団にある超淡銀河の約半数は、銀河団ガスの向かい風による星形成の誘発とガスのはぎ取りという過程を経て、できたのではないかと結論付けたとしている。