米Amazon Web Services(AWS)は11月29日から12月3日にかけて、グローバルカンファレンス「AWS re:Invent 2021」を開催した。今回は米国ラスベガスの会場とオンラインの開催と2本立てで行われた。12月1日の新たにCEO(最高経営責任者に就任したアダム・セリプスキー氏が登場。同氏は何を語ったのか。
15周年を迎えたAWS
AWSは2006年に最初のサービスとなるAmazon S3を提供開始、今年で15周年を迎えることになる。セリプスキー氏はサービスを開始した当時、「クラウドは『本物ではない、普及しない。スタートアップ企業のもの』と言われていた。企業が使い始めてからもミッションクリティカルなワークロードには適していないと言われていた」と、クラウドサービスに対する懐疑的な意見が多かったと話した。
しかし、「今では、さまざまな業界でミッションクリティカルなワークロードがAWSで使われており、数百万の人たちが、AWSでミッションクリティカルなアプリケーションを実行している。パートナーは10万社を超える」と述べ、企業がミッションクリティカルなアプリケーションをAWSで稼働していることを強調した。
セリプスキー氏はエンタープライズの導入事例として、Netflix、NASA、NTTドコモなどを紹介、基調講演には、ミッションクリティカルな導入事例として、証券取引市場を運営する米NasdaqのCEOを務めるアデナ・フライドマン氏が登場した。フライドマン氏は、北米のデータセンターに「AWS Outpost」を導入したAWSのローカルリージョンを構築すること、Nasdaqが2022年から証券取引市場を段階的にAWS上に移行していくことを明らかにした。
メインフレームをAWSに移行する「AWS Mainframe Modernization」
こうしたミッションクリティカルなワークロードでの活用を促進するサービスと言えるのが、今回発表された「AWS Mainframe Modernization」だ。同サービスは、メインフレームのワークロードをAWS上に移行するサービスで、メインフレーム環境とレガシー環境からAWSに移行するうえで必要な開発・テスト・デプロイのためのツール一式を提供する。
具体的には、自社のメインフレームワークロードをリファクタリングし、レガシーアプリケーションをJavaベースのモダンなクラウドサービスに変換することで、AWS上でワークロードを実行可能となる。また、自社のアプリケーションをそのまま保持し、既存のコードを最小限の変更で再利用しながら、ワークロードをAWSにリプラットフォームすることもできる。
同サービスに組み込まれているランタイム環境では、リファクタリングされたアプリケーションやリプラットフォームされたアプリケーションの両方を実行する際に必要なコンピューティング、メモリ、ストレージが提供され、キャパシティプロビジョニング、セキュリティ、ロードバランシング、オートスケーリング、アプリケーションの監視を自動的に行う。
セリプスキー氏は、「メインフレームから脱却し、クラウドに移行する方法はいくつかあるが、いずれも時間がかかる。Mainframe Modernizationなら、メインフレームのワークロードをクラウドに移行する際にかかる時間を3分の2に短縮できる」と語った。
新しいプロセッサ「AWS Graviton3」発表
AWS re:Inventでは毎年、さまざまなサービスが発表されるが、今年も例に漏れなかった。同社の代表的なサービスである「Amazon EC2」について、セリプスキー氏は「475以上のインスタンスタイプを提供している」と述べた上で、新しいプロセッサである「AWS Graviton3」を搭載したインスタンス「Amazon EC2 C7g」を披露した。
セリプスキー氏は、AWS Graviton3の特徴について、「Graviton 2のワークロードに対し平均25%の高速化を実現し、暗号化のワークロードでは2倍、機械学習のワークロードでは3倍の浮動小数点演算性能を発揮する。加えて、同等の性能を持つインスタンスに比べて、最大60%の電力消費量となっている」と語った。
「Amazon EC2 C7g」は、ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC)、ゲーム、ビデオエンコーディング、CPU ベースの機械学習推論など、コンピューティングを多用するワークロードに適しているインスタンス。
新しいインスタンスとして、Trainiumを採用した「Amazon EC2 Trn1インスタンス」も紹介された。同インスタンスは、画像認識、自然言語処理、不正検知や予測などのアプリケーションのMLモデルをトレーニングが行え、1万以上のTrainium チップでクラスターを構成可能だ。
数日で5Gネットワークを構築できる「AWS Private 5G」
もう一つ紹介しておきたいサービスが「AWS Private 5G」だ。同サービスは、プライベート5Gネットワークを構築するためのマネージドサービスで、必要なハードウェア、ソフトウェア、SIMカードを提供する。現時点では、プレビューの状態だ。
AWSは現在、エッジコンピューティングに関するサービスとして、「AWS Outposts」、「AWS Snow Family」、「AWS Wavelength」を提供しているが、「AWS Private 5G」では、AWS OutpostsやAWS Snow Familyを利用することができる。
同サービスでは、AWSの管理コンソールから、容量の追加注文、追加デバイスのプロビジョニング、アクセス権限の管理を簡単に行うことができる。また、デバイス単位の課金は行われず、接続されているデバイスとユーザーを必要な数だけプロビジョニングが可能だ。
セリプスキー氏は、「工場のロボット、スーパーのエアコン、エスカレーター、フォークリフトなど、あらゆるものを接続できるようにする必要がある。5Gネットワークはこれを実現できるが、構築には時間がかかり簡単ではない」と述べた上で、AWS Private 5Gについて、「数日で容易にプライベートモバイルネットワークを構築することができる。長期間にわたる計画や複雑なインテグレーションを行うことなく、運用できる。ショックなくらい簡単だ」と、同サービスがいかに容易にプライベート5Gネットワークできるかをアピールした。
企業のクラウド利用は進みつつあるが、メインフレームに代表される基幹システムのクラウド移行はなかなか進んでいないのが実情だ。そうした背景を踏まえ、基幹システムのクラウド移行を進めるサービスの提供が増えている。今回のAWSの発表もそうしたトレンドを裏付けるものだったと言える。