東京証券取引所を筆頭に3つの取引所などを運営する日本取引所グループは今、市場の未来を見据え、デジタル化を進めている。
12月1日に開催された「ガートナー ITインフラストラクチャ、オペレーション&クラウド戦略コンファレンス」に日本取引所グループ 常務執行役CIO 横山隆介氏が登壇。本稿では、「資本市場の未来へ向けた挑戦」と銘打って行われた同氏の講演の内容をレポートする。
トラブルから学んだレジリエンスの大切さ
今、証券市場では新たな取引場所が登場したり、大手プラットフォーム運営企業による新規参入の機運が高まったりと、ビジネス環境が変化しつつある。
また、新しい技術やシステムの登場、オンプレからクラウドへのシフトといったIT環境の変化も進んでいることから、横山氏は「今後、(自社の)役割が変化・拡大していく」と予測する。
こうした状況の中、2020年10月、東京証券取引所において大規模なシステム障害が発生したことで、横山氏は「レジリエンス(復旧性)を向上していく必要性を痛感した」のだという。そこから「社会インフラとしての機能を着実に実現していくこと」と、「変化に対応していくこと」という2つの役割を果たしていくために、同グループは本格的なデジタル化の推進に向けて舵を切った。
そんな日本取引所グループは2021年4月、「DX推進」「コンセプト市場」「グランドデザイン」の3つの分野の役割を担う組織として、先端研究開発センター(略称:DigiMa Lab.)を立ち上げた。
このうち「DX推進」は既存のIT・ビジネス強化を目的としたもので、数年前から取り組んでいるプロジェクトを引き続き、センターで行っていく。新しく取り組む「コンセプト市場」は、既存の制約にとらわれず、将来の市場の姿を想定しながら進めていくプロジェクトだ。非金融系のIT技術やビジネスモデルを取り込み、利用者とともに議論をしていくことを目指しており、「自動車で言えばコンセプトカー」(横山氏)だという。
また、システム障害に対するレジリエンスを高めると共に、社内でナレッジを蓄積することを目的に、内製化率の向上を狙っていくという。「DX推進」と「コンセプト市場」での成果物をインプットとし、企業全体としてのビジネス競争力を維持していくのが「グランドデザイン」という位置付けだ。
「システムのグランドデザインを考えていくことは、ほぼイコール、ビジネスのグランドデザインを考えていくことになります」(横山氏)