生活インフラを担う静岡ガスにとって、ネットワークは重要な基盤だ。同社はクラウドセキュリティソリューション「Zscaler」を導入してネットワーク基盤を一新、コロナ禍で浮き彫りになったVPN接続にまつわる課題を解決した。今回、静岡ガスのデジタルイノベーション部 ICT企画担当のマネジャーを務める佐藤貴亮氏に話を聞いた。
機器の保守切れと働き方改革を契機にネットワーク刷新
静岡県で約30万件の顧客向けに都市ガスを供給する静岡ガス。実は、同社が今年3月に行ったネットワーク刷新は、新型コロナがきっかけではない。2014年に導入したネットワーク機器の保守切れが迫っており、コロナ禍の前から新しいソリューションの導入の検討を始めていた。そんな矢先に世界が新型コロナに見舞われ、同社も2020年4月より在宅勤務が一気に増えた。
「コロナ禍の前から、出張などの際に外から作業できるように、部分的にはリモートワークの仕組みを作っていました」と佐藤氏。社員はグループ全体で約1900人、これに対してVPN同時接続の上限は100だった。そのためコロナ禍で在宅勤務が推奨されるされるようになると、あっという間にこの上限に達した。「同時接続数が足りないために、接続できたり途切れたりすることがありました。そのため、”不要な時は接続を切ってください”とお願いすることもありました」と、佐藤氏は振り返る。
もっとも、コロナの前から、働き方改革や従業員体験価値の向上という流れからみて、現状のままでは良くないという考えはあったそうだ。「これから労働人口が減少する中で、われわれとしては従業員が働く場所や時間をできる限り自由にしていく必要性を感じていました。それを実現するために、もっとネットワークの自由度を高くしようと話していたところでした」と佐藤氏。
ゼットスケーラー選定の決め手はコスト
このような背景を踏まえ、静岡ガスがネットワーク刷新で目指したことは、「利便性」「セキュリティ」「柔軟性」の3点だ。「社員の利便性を落とさず、むしろこれまでより改善する。セキュリティはもっと強固に。柔軟性では、将来に向けてある程度変更ができるような構成にしたかった」と、佐藤氏は説明する。
同社の課題を解決するソリューションとして、数社ある中から選んだのが、ソフトバンクが自社ネットワーク接続機器とセットで提案したゼットスケーラーだ。ネットワークセキュリティとしてゼットスケーラーの「Zscaler Internet Access(ZIA)」、リモートからの社内システムへアクセスでは「Zscaler Private Access(ZPA)」を導入、エンドポイントセキュリティ製品も刷新した。
選定の最大の理由はコストだ。「製品に求める機能を満たしているという点ではほぼ同じ。最終的にはコストが決め手になりました」と佐藤氏。ソフトバンク自身が新しい働き方を実践していることから、説得力があったそうだ。
導入を決定したのは2020年10月末。11月より構築に入り、回線の入れ替えなどの作業も進めて今年3月にリリースした。新型コロナウイルスの影響で半導体不足が生じたことなどにより、製品の調達がスケジュール通りに進まないなどのトラブルはあったものの、稼働までの期間を半年以内に収めた。佐藤氏は、苦労した点として、約60の拠点の工事の段取りを挙げた。静岡県以外にも拠点があることから、コロナ禍でのスケジュール組みが大変だったそうだ。
「利便性」「セキュリティ」「柔軟性」は達成
このようにして導入した新しいネットワークに対する社内の評判は上々だ。ZIAとZPAを使って、通信をクラウドに集約してセキュリティ対策を実施するシステムを構築することで、VPN接続の面倒を排除できた。「それまでは、PCを立ち上げてログインし、VPNを立ち上げて社内システムにログインしてと複数のステップを踏まなければ仕事が始められませんでした。しかし、今ではPCを起動すると自動でVPNに接続して仕事が始められる。通信環境さえあれば、自宅でも新幹線からでもすぐに仕事ができる」と佐藤氏。「安全に仕事ができ、利便性も同時に改善できた」と、ネットワーク刷新の効果を説明する。もちろん、それまでのVPN接続の上限もなくなった。
管理については、SD-WANに期待を寄せる。これまでは拠点が増えたり、設定を変更したりするときは現場に行かなければできなかったが、新システムでは遠隔から管理できるようになった。セキュリティについては、「まだセキュリティの事故がないのでわからないが、Zscaler製品で一元管理できるので、万が一の時の対策が取りやすい」という。
総じて、刷新前に目標として掲げていた「利便性」「セキュリティ」「柔軟性」は達成できそうだという。
静岡ガスはDX(デジタルトランスフォーメーション)を社内向けの「守り」と社外向けの「攻め」で分けて考えており、佐藤氏らが所属するICT企画担当は「守り」を受け持つ。守りのDXでは、柔軟な働き方をサポートするITインフラは重要な取り組みとなる。コロナ禍の前に「Microsoft Teams」の導入が済んでおり、RPAを使った業務効率化も進めているという。
今後の展望として佐藤氏は、「これからも『利便性』『セキュリティ』『柔軟性』は大切にして、その延長線上でさまざまな取り組みを続けていく」と話す。一例として、現状個別のシステムで行っている認証を、セキュリティを担保しながらシングルサインオンのように簡便にできるような仕組みを考えているという。
セキュリティについては、「Zscalerという良い製品を紹介いただいたが、技術だけではなく人の教育にも力を入れていきたい」と、佐藤氏は語っていた。