新潟大学と国立天文台(NAOJ)は、アルマ望遠鏡を使った観測により、天の川銀河の最外縁部を観測し、これまで知られていなかった新たな原始星を発見したこと、ならびにこの星には水や複雑な有機分子を含む化学的に豊かな分子ガスが付随していることを明らかにしたことを発表した。

同成果は、新潟大 研究推進機構超域学術院の下西隆研究准教授、NAOJの古家健次特任助教、同・安井千香子助教、台湾中央研究院 天文及天文物理研究所の泉奈都子博士後研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

恒星や惑星を生み出すには、星間ガスや星間塵が集積した分子雲が-260℃程度の極低温である必要があるとされており、その炭素・窒素・酸素などを含む分子の多くは凍った状態で存在し、「星間氷」と呼ばれている。

しかし星が誕生して、周囲の物質が-150℃~室温程度に温められ、「ホットコア」と呼ばれる状態になると、星間氷は解けてガス状態で放出されるようになる。そしてこの過程において、塵の表面やガス中での化学反応により、複雑な有機分子が生成されると考えられており、こうした現象は、惑星系の材料物質の化学進化にも大きな影響を与えるとされている。

このような原始星周囲の多様な有機分子を含むガス雲のホットコアには、一酸化炭素や水のような単純な分子から、生命関連物質の材料となり得る複雑な有機分子まで、化学的に豊かで多様な分子がこれまでの観測により検出されている。

天の川銀河は一般的に直径10万光年といわれるが、渦状腕があることからもわかるように、物質の偏りが存在することから、より外側の13万光年ほどまで天の川銀河のテリトリーが広がっていると見積もられている。

その中で太陽系は、星が密集した中心部から2万6000光年ほど離れた“郊外”にあるが、中心からの距離がおよそ4万4000光年以上になってくると、「外縁部」と呼ばれるようになり、より外側の6万光年以上離れた場所は、「最外縁部」とされる。

最外縁部は、炭素や酸素、窒素といった(宇宙誕生時から存在する元素以外を天文学的に指す)重元素が、太陽系近傍よりも少ないことが知られているほか、銀河系の星形成の主要な場となっている銀河の腕(渦状腕)も最外縁部までは伸びておらず、星の数も少なく、元素も乏しい僻地であると考えられてきたが、こうした特徴は、銀河系の形成初期に存在していた原始的な環境と共通していると考えられていることから、太陽系が誕生した46億年前、またはそれ以前の宇宙において、現在の太陽系に見られるような有機物に富んだ姿は普遍的だったのか、それとも特殊だったのか、また有機物に富んだ惑星系へと進化するための条件は何だったのか、といった問いに答える上で銀河系の最外縁部は重要な研究対象とされている。

近年の観測から、最外縁部にも分子雲や原始星候補天体がいくつか見つかっているが、太陽系近傍の星形成領域に比べて研究が進んでおらず、星・惑星材料物質の化学組成の研究に至ってはほとんど未開拓の領域だという。

そこで研究チームは今回、アルマ望遠鏡を用いて、中心から約6万2000光年と遠く離れた最外縁部の星形成領域「WB89-789」の観測を実施。観測の結果、同領域に生まれたばかりの星を発見することに成功した。

  • アルマ望遠鏡

    銀河系の最外縁部に発見された原始星とそれを取り巻く有機分子の雲の想像図 (C)新潟大学 (出所:国立天文台Webサイト)

また、その星から検出された分子輝線の解析を行ったところ、同天体には水や複雑な有機分子などを含む化学的に豊かな分子ガスが付随していることが判明。銀河系最外縁部において、原始星やそれを取り囲む有機分子の雲が検出されたのは今回が初めてのことだという。

検出された30種類以上の分子の中には、エタノール、ギ酸メチル、ジメチルエーテル、アセトアルデヒドなど、星間空間では比較的大きな有機分子に加え、アセトニトリルやプロピオニトリルなどの窒素を含む有機分子など、多種多様なものが含まれていたとするほか、発見された天体の化学組成を、天の川銀河の内側にある同様の天体のものとの比較したところ、複雑な有機分子の存在割合が類似していることが判明(今回はメタノール分子の割合を比較)。これは、銀河系最外縁部のように重元素量が少ない原始的な環境においても、複雑な有機分子が銀河系の内側と同じような効率で生成されることを示唆するものだとしている。

  • アルマ望遠鏡

    (上)アルマ望遠鏡により発見された銀河系最外縁部の原子星の電波スペクトル。(下)原始星の分子輝線分布の一例。右下には観測された領域の赤外線2色合成画像(赤が2.16μm、青が1.25μm、2MASSデータベースより)が示されており、今回の原始星は緑色の四角で囲まれた領域に位置する (C)ALMA(ESO/NAOJ/NRAO),下西隆/新潟大学 (出所:国立天文台アルマ望遠鏡Webサイト)

なお、研究チームでは、今回発見された天体について、さまざまな有機分子が検出されたものの、こうした化学的に豊かな姿が銀河系の最外縁部にあるほかの原始星にも存在するかどうかは不明であるほか、どのような条件が揃えば、生命関連物質の材料ともなり得る複雑な有機分子に富んだガスをまとう原始星へと進化していくのかもまだよくわかっていないとしており、今後、アルマ望遠鏡などを用いて、同様の天体の探査観測が進むことで、銀河系の原始的な環境下における星形成・物質進化の詳細な様子が、より多くの天体について明らかになることが期待されるとしている。