島津製作所は神戸大学発ベンチャーであるバッカス・バイオイノベーションに出資するとともに、業務提携契約を締結したことを11月30日に発表した。
バッカスは神戸大学副学長・科学技術イノベーション研究科長の近藤昭彦教授が取締役を務め、同大学先端バイオ工学研究センター長の蓮沼誠久教授が技術アドバイザーとして在籍し、両者がNEDOプロジェクトなどで培ってきた技術をもとに、顧客ニーズに合わせてスマートセルを創出する開発受託サービスに取り組んでいる。
スマートセルとは、狙った有用物質を効率よく大量生産できるように人工的に遺伝子を変化させたもの。ゲノム編集、ゲノム合成などの「バイオ技術」とAI、ITといった「デジタル技術」の融合で、従来は大量生産が困難だった物質の生産効率改善が期待でき、医薬品や食品、新素材、環境などさまざまな領域での技術革新が期待されている。
また、スマートセルの活用は「脱炭素」の観点からも必要不可欠とされており、石油や天然ガス由来のものづくりから、バイオ技術を活用したものづくりに移行することで化石燃料不使用が実現でき、大量のエネルギーを使う従来の生産方法をバイオ生産に置き換えることができれば二酸化炭素排出量の削減にもつながるという。
ただし、スマートセルの産業化には「狙い通りの物質が生産できたかどうかの迅速・正確な確認」や、「研究室で試作した新規物質の高品質での大量生産」などの課題がある。
また、スマートセルを開発し、狙った物質を生産するシステム(バイオファウンドリ)の事業は主に米国の大手数社が手掛けており、これらの企業への高額な委託費用や煩雑な契約などの懸念から、日本企業においてはスマートセルで生産する新規物質を手軽に活用しにくい点も課題だという。
島津製作所は液体クロマトグラフ(LC)や質量分析計(MS)による分析計測技術を利用してスマートセル分野に関わっており、2016年からは5か年にわたって新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトとして神戸大学と共同研究を行い、細胞からの代謝物の分析に関して「前処理時間の短縮」「分析の高精度化」などを実現した実績がある。
同社は2022年1月より、業務提携契約に基づきバッカスと「ハイスループット化に向けた分析機器の改良」など複数テーマで共同研究を行うのに加え、島津製作所の社員を1名派遣してスマートセル分野のさまざまな課題に取り組む計画だ。
バッカスへの出資と共同研究を通じて島津製作所は、スマートセル分野に本格参入し、革新的な分析計測技術の開発を通じて、脱炭素社会の実現に貢献していくとしている。