データサイエンスを活用することで先進的半導体製造装置制御・プロセス制御(Advanced Equipment Control/Advanced Process Control: AEC/APC)を高度化し、科学に根差した効率的な半導体生産めざす国際シンポジウム「AEC/APC Symposium Asia 2021」が、11月4日から年末までの期間、オンデマンド開催されている。
最近2回のテーマは、「IoTとAIの融合による次世代AEC/APCに向けて」、「データサイエンスに基づくデジタルツインで新たな価値を創造しよう」であったが、今回のテーマは、さらに一歩進めて「SX(サステイナビリティ・トランスフォーメーション)/DX(デジタルフォーメーション)時代のAEC/APCによる課題解決とイノベーションへの貢献」となっている。主催はInternational Symposium on Semiconductor Manufacturing(ISSMI:半導体製造国際会議)実行組織で、AEC/APC Symposium Asiaはその姉妹会議に位置付けられている。
今回は、基調講演1件、特別(招待)講演2件、チュートリアル(講義)1件、一般講演13件の構成で、バーチャル会議のため、例年行われてきたポスターセッションは中止となっている。
チュートリアルは、ソニーグループによる「ディープラーニング(深層学習)の最新動向と社内の活用促進事例」。特別講演は、東京エレクトロンによる「持続可能な社会をめざす半導体製造の取り組み」と「IRDSファクトリーインテグレーション(ITRSに代わる新たな半導体ロードマップ)におけるFactory Integration(工場統合)の紹介」の2件となっている。
また、基調講演は、NXP Semiconductorsのフロントエンドオペレーション担当シニアバイスプレジデントであるSteven Frezon氏による「自動車用半導体製造での欠陥ゼロをめざすデータエンジニアリング」となっている。
自動車産業は、無事故の目標を実現するために自動車向け半導体に期待している。車載半導体を製造する観点からは、製造プロセス中のわずかな異常を即座に確認し顧客に引き渡した後に欠陥が発生しないようにするために、「データエンジニアリングとその分析がきわめて重要である」と確信しているとし、「協力会社の強力なパートナーシップとさまざまな社内外ツールの試験運用を通じて、エンジニアリングチームにとって半導体製造過程で発生するわずかな異常データ信号を即座にかつ効率的に見つけることができる革新的なシステムへの道筋を見てきた」という。現在は段階的に導入の途上にあり、2024年には「AIラーニングプラットフォーム上の意思決定支援システム」を自社の製造ラインで完成させるという。
最優秀論文はキオクシアの「半導体欠陥自動分類手法」
Best Paper Award(最優秀論文賞)には、キオクシア四日市工場の「半導体製造において対照表現学習を活用して教師無しで半導体欠陥分類する手法」が選ばれた。
同社では、かねてより欠陥検出分類の自動化に注力してきたものの、最終的に10%ぐらいは欠陥分類に熟練した技術者(教師)の手にゆだねなる必要があり、それをすべて自動化しようという試みだという。
Student Award(学生の発表の中でもっとも優秀な論文に与えられる賞)には、ソウル国立大学(Seoul National University)の「SF6/O2/Ar容量結合プラズマ中でプロセスを行ったSiエッチングのプロファイルを予測するためにプラズマの状態を示す変数を用いた仮想計測(Virtual Metrology)の開発」が選ばれた。仮想計測は、オンライン測定できない品質などの重要変数をオンライン測定できる変数から推定し、製品品質の安定化と製造の効率化を図る手法であり、他産業では、「ソフトセンサー」呼ばれている。
AECAPC2021では、このほか以下のようなテーマの講演が行われた。なお、内容分類は主催者の判断による。
ツールデータ収集・解析分野
- 「最終頻出推測とプロセス統合のための工業データの相互作用モデリング」(筑波大学)
- 「半導体プロセスの実行ごとの異常事態の予測」(米Inficon)
- 「ディープラーニングを用いたSEM画像異常検知」(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)
- 「トレンチ深さ予測モデル構築時の課題と解決方法」(東芝デバイス&ストレージ)
EPC分野
- 「リアルタイム薄膜堆積とクリーンエンドポイントモニタリングのための水晶振動子マイクロバランスマイクロバランス」(米Inficon)
- 「CNN(Convolutional Neural Network、畳み込みネットワーク)を用いた異常膜厚分布の早期検出」(ウエスタンデジタル/キオクシア)
- 「機械保守のための高調波数を利用した振動信号の異常検出」(ローム)
- 「独自の波形抽出を利用したオートエンコーダシステムの誤警報低減」(ルネサス エレクトロニクス)
APC分野
- 「ウェハごとのデバイス構造ばらつきを改善するためのマルチデータを用いた膜厚モニタの開発」(日立製作所/日立ハイテク)
- 「イオン注入システムのドーズ量均一性のマシンラーニングベースの最適化」(米Massachusetts Institute of Technology/米Applied Materials)
- 「製造装置の機差とプロセス制御を改善するためのマシンラーニング」(シンガポールLam Research)
AEC/APCは半導体デバイスの生産性向上に寄与する重要な技術の1つとして、長年にわたって貢献してきた。そして、AIやIoTといった新しいデジタル技術の導入が進み、さらにはESG(環境・社会・ガバナンス)への貢献にも視野を拡大したサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に取り組んでいくことが求められるようになってきた。
半導体デバイスは高速・高性能・高機能に加えて低消費電力であることが必須となり、半導体生産時においても環境負荷が低くなるようなオペレーションが求められるようになっている。さらなる生産性向上やプロセス工程最適化、用力や原材料の使用量の最適化など大小さまざまな制御ループとしてのAEC/APCの重要性はますます高まる一方であり、進化が必要になってきている。しかし、一般講演は、相変わらず個々の装置の中のさらに細部の要素の制御に終始している発表が多かった印象であった。今後は、製造ラインレベル、工場レベルでのAEC/APC活用事例の発表が期待される。