国立天文台(NAOJ)と東京大学は11月24日、産業利用から医療診断まで幅広い分野で実用化が進んでいる「異常検知AI」を応用して、すばる望遠鏡で撮影された約5万枚の銀河画像の中から、特異な性質を持った希少銀河を検出することに成功したと発表した。
同成果は、NAOJと総合研究大学院大学が毎年開催している「サマーステューデントプログラム」に参加した東大理学部の田中匠学部生、NAOJ ハワイ観測所の嶋川里澄特任助教らを中心とした研究チームによるもの。詳細は、「日本天文学会欧文研究報告(PASJ)」に掲載された。
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)を用いた大規模探査(すばる戦略枠プログラム)の進行により、大量の銀河が高感度で撮影されている。同探査プログラムで検出された天体は、これまでに5億を超えており、その中には発見数が少ないために統計的な解析が難しかった希少銀河や、未知の種類の天体が紛れている可能性もあると推測されている。
しかし銀河の数があまりにも膨大であるために、そのような天体を探し出す作業は、人手ではもちろん、コンピュータを用いた既存の解析手法でも時間がかかり過ぎてしまい、これまでは分類などの作業が進んでいなかった。
そこでこのような問題に対し、天文学の世界でも機械学習(AI)を導入し、大量のデータを効率的に分類する手法が近年になって検討されるようになってきた。そうした中で今回、東大の田中学部生とNAOJの嶋川特任助教が率いる研究チームが、すばる望遠鏡で得られた大量の画像データから、教師なし機械学習の一種である異常検知AIを用いて希少天体や未知天体を探し出すプロジェクト「SWIMMY」(Subaru WIde-field Machine-learning anoMalY)をスタートさせたのである。
SWIMMYプロジェクトの第1段階となる今回の研究では、HSCで撮影された大量の銀河画像の中から異常検知AIによる希少天体の探査が行われた。用意された約5万枚の銀河画像を学習させた結果、中心部分に珍しい色や形状、明るさなどの特徴を持つ銀河(全サンプルの約12%)が検出。既存の銀河カタログとの照合が行われた結果、これらの候補天体の中には、クェーサーや、爆発的に星形成をしている銀河など、珍しい特徴を持つ既知の銀河を6割程度の割合で選択できていることが示されたとする。
またスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)で取得された分光データを確認したところ、多くの候補天体が一般的な銀河に比べ強い輝線を示す天体であることも確認されたとのことで、今回の手法によって初めて検出された候補天体の中には、これまで見落とされてきたクェーサーや極度に強い輝線銀河が多く含まれていることが期待されるとしている。
なお、今後の展開としては、検出した候補天体の詳細な解析に向けた追観測の実施や、モデルの改良による特定種類の天体の検出などへの応用などを考えているとしている。