かずさDNA研究所(かずさDNA研)と千葉大学は11月24日、ぜん息やアトピー性皮膚炎などのアレルギーを引き起こす脂質代謝経路を明らかにしたと発表した。

同成果は、かずさDNA研 オミックス医科学研究室の遠藤裕介室長、千葉大の中山俊憲学長らの共同研究チームによるもの。詳細は、免疫学や神経学、がんなどを扱う学術誌「Journal of Experimental Medicine」に掲載された。

現在、日本人の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患を有しており、その割合は年々増加している。近年、ステロイドや抗アレルギー剤など、さまざまな新薬が登場してきたことで治療の選択肢は増えてきており、アレルギー疾患による死者数も減ってきたという。しかし、依然として根本的な治療法の開発には至っておらず、現在も対症療法による治療が中心であることは変わっていない。

これまでの研究から、アレルギー疾患では花粉やダニ、特定の食物などのアレルゲンにリンパ球の一種であるT細胞が反応し、疾患を誘導することが知られている。近年ではT細胞の中に炎症性サイトカインを特に多く産生する集団「病原性T細胞」が存在することが、国内外の研究チームにより発見されている。また、T細胞が炎症反応を誘導する際に細胞内の特定の代謝系が活性化することも、近年の研究から明らかになってきている。

ただし、病原性T細胞がどのように発生し、疾患を誘導するのかについてはまだ不明な部分が多いという。そこで研究チームは今回、これまで病原性T細胞や脂質代謝によるT細胞の機能制御について研究を行ってきた成果を活用し、病原性T細胞における脂質代謝と炎症誘導能の関係について明らかにするための研究をすることにしたという。

今回、研究チームが着目したのが、T細胞の活性化に伴い、脂肪酸合成が上昇するという点だという。今回は、研究チームがかつて明らかにした、ぜん息を誘導する病原性T細胞の一種である「病原性記憶Th2細胞」における脂肪酸代謝の調査が行われた。

病原性記憶Th2細胞は炎症性サイトカイン「IL-33」に強く反応し、サイトカイン「IL-5」を多量に産生することで好酸球を誘導し、ぜん息を引き起こすことが知られている。今回の調査では、IL-33で病原性記憶Th2細胞を刺激すると、多くの脂肪酸合成関連遺伝子が活性化することが明らかにされた。

  • 脂質代謝

    ACC1阻害によるIL-5産生の抑制 (出所:プレスリリースPDF)

そのうちの脂肪酸合成の律速酵素である「アセチルCoAカルボキシラーゼ1」(ACC1)を阻害する薬剤を病原性記憶Th2細胞に加えたところ、IL-5の産生が減少することも確認されたほか、ぜん息モデルマウスの肺リンパ球では、IL-5を産生してIL-33に対して反応する細胞集団が特にACC1を強く発現していることも判明。このことから、IL-5を多量に産生する病原性Th2細胞はACC1を強く発現しており、ACC1を阻害するとIL-5の産生を抑制できることが判明したという。

  • 脂質代謝

    (上)マウス肺の炎症像(H&E染色像)。(下)血中抗体価 (出所:プレスリリースPDF)

さらに、ACC1阻害によるIL-5産生の抑制がぜん息の病態に影響を与えるのかどうかの調査として、T細胞のACC1を欠損したマウスにぜん息を誘導したところ、肺のT細胞が産生するIL-5が減少し、気管支や肺胞に存在する好酸球が減少していることが明らかとなったほか、肺の炎症も通常のマウス(対照群)に比べ減弱していること、ぜん息を誘導した抗原に対する血液中のIgE抗体の値も低下し、アレルギー反応そのものが抑えられていることなどが確かめられたという。

  • 脂質代謝

    ACC1阻害剤塗布による効果。(上)皮膚炎誘導前と比べた皮膚の厚さの変化。(下)炎症誘導9日目のマウス皮膚(耳介)の写真 (出所:プレスリリースPDF)

このほか、研究チームはほかのアレルギー疾患でもT細胞のACC1を抑えることで炎症を抑制できる可能性を考察。ACC1欠損マウスやACC1阻害薬を用いて、アトピー性皮膚炎を誘導して解析を行ったところ、予想通りに、ACC1欠損マウスやACC1阻害薬を塗布したマウスの皮膚炎は対照群に比べ弱くなることが確認されたほか、活性化してまもないT細胞から産生されるサイトカイン「IL-3」がACC1欠損によって強く抑えられていることも判明したという。

今回の結果は、ぜん息やアトピー性皮膚炎を引き起こすT細胞の炎症の誘導はACC1と密接に関係しており、ACC1を抑えることでアレルギー性炎症を抑制できることを示すものであり、今後、さらに詳細な脂質代謝による免疫機能制御のメカニズムを明らかにすることで、臨床での治療応用につなげたいと考えていると研究チームでは説明している。

  • 脂質代謝

    今回の研究によって明らかにされたことの概要図。(左)ぜん息モデル肺炎症の模式図。(右)アトピー性皮膚炎の皮膚炎症の模式図 (出所:プレスリリースPDF)