弘前大学と岩手大学は11月22日、導電性酸化物「Ti4O7」を安価かつグラム単位で合成する技術と、同酸化物を用いた高性能な燃料電池電極を開発することに成功したこと、ならびに白金ナノ粒子をTi4O7に担持した触媒「Pt/Ti4O7」を開発し、市販されている触媒と同等以上の性能が確認されたこと、正負両極で同触媒を利用して単電池を試作して自動車の加速・減速サイクルを1万回繰り返す実験を実施した結果、一切発電性能が低下しない高い耐劣化性能が得られたことなどを発表した。

同成果は、弘前大大学院 理工学研究科の千坂光陽准教授と岩手大理工学部 化学・生命理工学科の竹口竜弥教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する学術誌「Chemical Communications」にオンライン掲載された。

固体高分子形燃料電池(PEFC)は、水素を燃料に空気中の酸素を取り込んで発電し、水しか生成しないクリーンな自動車用動力源として活用されているが、その電極には白金系ナノ粒子をカーボンブラックに付着(担持)させた触媒が利用されており、その酸化を防ぐために高価なシステムで電圧を制御する必要がある。

また、地殻に存在する酸化チタン(TiO2)に比べ、還元されているTi4O7の合成には、通常1000℃を超える高温で長時間加熱する必要があり、加熱中に凝集して触媒である白金を担持する面積が低くなることが課題であったという。そこで研究チームは今回、電圧を制御せずにPEFCを動作させることができる触媒材料として、炭素熱還元法を利用することで、低温で100m2/gを超える比表面積を有するTi4O7の合成手法を開発することに成功したという。

具体的には、空気中で安定かつ安価なチタン源である「硫酸チタニル」(TiOSO4)を採用。しかも高価な設備を利用しないことから、一度に最大2g超というグラム単位でTi4O7を安価に合成することが可能だという。また、実際に、白金ナノ粒子をTi4O7に担持した触媒「Pt/Ti4O7」を開発し、性能を調べたところ、PEFCの負極・正極として、市販されている触媒と同等以上の性能が確認されたとする。さらに、正負両極に同触媒を利用した単電池を試作し、自動車の加速・減速サイクルを1万回繰り返す実験を行ったところ、一切発電性能が低下しない高い耐劣化性能も確認したという。

なおTi4O7は、室温でグラファイトに匹敵する高い導電率を示す高耐久な電極材料として、PEFC以外にも、亜鉛空気電池やリチウム硫黄電池、リチウム空気電池などといった次世代二次電池においても、その利用が幅広く検討されているという。

またTi4O7は、大量合成に適しかつ耐劣化性能が高いため、本格普及期におけるPEFCの運転コストの低減につながることが期待されるともしており、今回の成果が水素社会の実現に向けて貢献することが期待されるとしている。

  • 燃料電池

    今回開発されたPt/Ti4O7触媒の加速劣化試験前(赤の実線)と、自動車の加速・減速サイクルを1万回繰り返した試験後(黒の破線)における発電性能。差がなく、高い耐劣化性能が確認された (出所:共同プレスリリースPDF)