英国・グラスゴーで10月31日から開催されていた第26回締約国会議(COP26)では、石炭火力発電について「段階的削減に向けた努力を加速する」と、石炭火力を削減する方向で成果文書が採択された。
日本でも2021年10月に発表された「第6次エネルギー基本計画」で石炭火力の削減について現在の約30%から19%まで削減すると記載されている。
石炭火力の代替として注目されているのが太陽光や風力を使用した再生可能エネルギー(再エネ)だ。
今回、風力発電や太陽光発電事業に取り組むグリーンパワーインベストメント(GPI)の事業開発本部対外連携推進グループグループ長の力石晴子氏に現在の再エネの課題や、普及に向けて同社で行っていることなどのお話を伺う機会を頂いた。
力石晴子氏プロフィール
建設コンサルタント会社に入社し、国内の公共事業における環境アセスメントを担当した後、同社海外事業部に移動。東ティモール、イラン、ミャンマー、インドなどの森林保全、環境保全の案件に携わる。シンクタンクに転職後も同分野に加え生物多様性、気候変動における官公庁の調査や国際協力機構(JICA)の現地プロジェクトを担当。2018年、グリーンパワーインベストメントに入社。現在は地域との協議、行政との連携、運営後の地域連携策の計画づくりと実施支援に携わる
グリーンパワーインベストメント
2004年の創業より一貫して再生可能エネルギー事業の開発、建設、運営に取り組む。GPIが手掛ける発電所は、現在5か所で稼働中、1か所で工事中、2か所で着工準備中となっている。
再生可能エネルギー普及の課題
--力石さんが考える現在のエネルギーの問題点はどのようなものがあるのでしょうか。
力石氏:まずは“エネルギーの海外依存の問題”です。日本のエネルギー自給率は2018年時点で約11.8%(経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー白書2020」)となっています。対してアメリカの自給率は約97.7%(IEA 「World Energy Balances 2019」)です。
しかも海外から輸入したエネルギーは輸送の段階から温室効果ガスを大量に排出しています。
カーボンニュートラルの実現やエネルギーの自給率をあげる解決策の1つとして再エネが挙げられますが、ここでも“社会受容性”(編集部注:地域や国民の理解・賛同)という課題があると思います。
2020年に菅前総理大臣が“2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す”ことを宣言しました。これに伴い、再エネの拡大が掲げられていますが、施設の建設や稼働に対する地域の反応はさまざまで、正しい情報発信による社会システムの受け皿の構築が十分ではないように感じています。
--では、現在の再エネの普及状況と普及拡大にどのような課題があるのか教えてください。
力石氏:日本で発電しているエネルギーの中で水力を除いた太陽光・バイオマス・地熱・風力発電の割合は10%に到達しないくらいとなっていますので、まだまだ伸びしろがあると考えています(出典:資源エネルギー庁 国内外の再生可能エネルギーの現状と 今年度の調達価格等算定委員会の論点案)。
2021年7月に閣議決定した日本の「第6次エネルギー基本計画」では再エネの割合を36%~38%に引き上げる方針です。
欧州諸国のような政府があらかじめ開発領域などを指定し、風況や系統確保等の基礎調査を済ませたうえで事業者を選定する「セントラル方式」のような形も重要だと考えています。
なぜなら、日本では再エネ事業者が「開発地域の選定」「許認可手続き」「地域との調整」「安定供給の仕組みづくり」「地域内の経済波及効果の検討」などほとんどすべての工程を事業実施の最終許認可を受ける前に実施しており、商業運転までのハードルが非常に高いのが現実です。
計画策定や開発に伴う工程において事業会社と政府との並走体制が整備されると、政府が定める目標達成に向けた再エネの導入のスピードを加速できるのではないかと思います。
GPIが考える再エネ普及に必要なもの
--再エネの普及にも課題があるとのことですが、力石さんが考える課題へのアプローチがあれば、教えてください。
力石氏:再エネは、各地域で花が咲いていくとそれぞれ実がなり、地域がその実を享受できるというイメージを持っています。
再エネ施設を受け入れた地域が、未来に向けてどのような絵を描けるのかを一緒に考えていくことが必要だと思っています。具体的に言えば再エネ事業者が地域づくりも一緒にやっていくといったことです。
再エネは山地や農地、海を地元の方と共有し、太陽や風の力を元にエネルギーを作っているので、一次産業にとても似ていると思います。地域の強みを生かした産業として、企業誘致や工業誘致のように経済効果があるということを伝えていき、再エネが地域にとって歓迎されるようなものに変わるように働きかけていきたいと思っています。
弊社の再エネ普及と地域づくりを同時に行っていくという具体的な事例としては「ウィンドファームつがる」が挙げられると思います。(編集部注:ウィンドファームつがるは2020年4月に運転を開始した陸上風力で日本最大級となる121MW規模の発電所。自然エネルギー財団が2020年に算出している陸上風力発電の平均発電所規模が18.1MWということからその大きさがわかる)。
ウィンドファームつがるでは、つがる市への事業者としての納税だけでなく事業収益の一部を協力金として基金を立ち上げ還元しています。
基金の使い道としては、つがる市は農地が多いため農作物保管庫の増強やGPSの活用など農業新規技術の研究に活用いただいていているほか、つがる市の名産品の1つでもあるメロンの通年栽培を目指した水耕栽培実証試験事業にも活用いただいており、もうすぐ5回目の収穫を迎えます。
再エネの社会的受容性をあげるためには
--再エネ普及の課題として社会受容性をあげていました。その課題に対して力石さんはどのようなアプローチを考えていますか。
力石氏:正しい情報を事業会社側できちんと出していかなくてはならないと思っています。また、同時に一般の方々にその情報を知っていただく機会を作っていく必要があると考えています。
例えばGPIでは、建設工事を行う際に地元の方々に工事の様子を見学していただき、雨水対策や土砂崩れ対策などをどのように行っているかといったことを実際に見ていただいています。
--風車のプロペラ落下事故のニュースなど、安全性の面での懸念の声もあります。近年ではこの“安全性”という面ではどのような規制などがあるのでしょうか。
力石氏:風力発電は2012年、太陽光は2020年に環境アセスメント法の対象事業となりました。
こういった法律が制定される前に建設された風車には注意が必要ですが、風力発電所は環境アセス法のほか、認証も現在ではかなり厳しくなっています。 GPIでは政府の許認可のほかに、ウィンドファーム認証という第三者認証を取得して風力発電所を建設しています。この認証制度は機能面と安全面の両方を評価するものです。
このような安全性について正しい情報をお伝えしご理解いただくための努力をつづけること、再生可能エネルギーの可能性を信じ、地域の未来を一緒に考えることが、わたしたちの仕事だと思っています。
将来的には、地域の方々に再エネ施設があることが歓迎され、地域の強みとなり、「風車があってよかったね」と思っていただけるような取り組みを続けていきたいと考えています。
取材を終えて
今回、力石氏には再エネの現在の課題や目指す未来について話を伺った。
再エネの発電所の設置だけにとどまらない、GPIの取り組みは非常に興味深い。 GPIが進める“地域の強みとなるようなエネルギーづくり”は、エネルギーの話だけにはとどまらない可能性を感じた。