京都大学(京大)は11月17日、飼いネコを用いて、飼い主の声からその位置を心的に捉えているのかを調べたところ、飼い主の姿が見えなくても声からその位置を把握していることが確かめられたと発表した。
同成果は、京大大学院 文学研究科の高木佐保日本学術振興会特別研究員(PD)(現・麻布大学 特別研究員/日本学術振興会特別研究員(SPD))、同・千々岩眸教務補佐員(現・大阪大学大学院 人間科学研究科 特任研究員)、荒堀みのり 日本学術振興会特別研究員(DC1)(現・アニコム先進医療研究所 研究員/京大 野生動物研究センター 特任研究員)、上智大学の齋藤慈子准教授、京大大学院 文学研究科の藤田和生教授(現・京大文学研究科 名誉教授、同・黒島妃香准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。
イヌの心の理解はこの20年でかなり進歩してきたが、イヌと並んで多くの家庭で飼われているネコの心の研究はあまり進んでいないという。ネコは新奇なヒトや場所への恐怖がある個体が多く、従来の実験室での実験手法がそのまま適用できないことがその要因とされている。
それでもこれまでの研究から、ネコが目に見えない(視界内にいない)ヒトやモノなどについて、心の中でその存在を留めておける認知能力があることが知られるようになっていたが、そのような認知能力が、実際の生活場面でどのように活かされているのかは未解明だったという。
そこで研究チームは今回、飼いネコ(ヒトと居住を共にするネコ)に対し、野生のベルベットモンキーやミーアキャットを対象とした野外の実験手法を、なおかつネコの得意な聴覚刺激を用いた実験として行うことで、ネコが飼い主の声から姿が見えない飼い主を心的に捉えているのかどうかを調べることにしたという。
実験は、2つのスピーカーを設置した部屋に、ネコを1匹だけにすることで行われた。スピーカーの位置は、1つは扉の外(スピーカー1)に、もう1つは部屋の中(スピーカー2)に設置。スピーカー2は部屋内の窓や扉などの下に設置され、スピーカー1からは最低でも4mは離されて実験が行われた。
具体的な実験としては、スピーカー1から飼い主の声でネコの名前を呼ぶ声を5回再生した後に(馴化段階)、間髪いれずにスピーカー2から同じ音声の再生を行うというもの。6回目の音声再生後のネコの反応について、ヒト評定者が「どの程度驚いているか」に関する評定を実施した結果、ネコは飼い主の声がスピーカー2から再生される条件で、知らないヒトの声がスピーカー2から再生されるなどのほかの条件よりも「驚いた」ことが評定されたという。
また、同じ実験条件で物理的な音(チャイム音など)を用いた実験が行われたが、ヒトの音声を用いた実験とは異なる結果となったとする。スピーカー2から音がすると、その種類(馴化段階と同じ音か違う音か)に関わらず、音に対する反応が大きくなったという。このことから、単に馴化段階と同じ物理的な音をスピーカー2から再生しても反応が強くならないということが確かめられたとしている。
一方で、ネコの発声を音刺激として用いた実験2では、スピーカー2から馴化段階と異なるネコの発声が聞こえた時に反応が最も強くなり、同じネコの発声が瞬時に異なる場所から再生されても反応は強くならなかったとする。このことから、ネコは同居個体の位置をそれほど気にしていない可能性や、発声の違いを検出することはできても発声を用いた個体を弁別していない可能性が挙げられるとする。
これらの結果は、ネコは見えない場所に飼い主がいても、心の中で捉えていることを示すものであるとする。このような、対象が視界から消えても心の中に留めておける能力は「物体の永続性」といわれ、想像力や創造力の基盤となる能力だといわれている。
一般的に、ネコはイヌよりも愛情表現が少ないと考えられているが、今回の研究からネコは目の前に飼い主がいなくとも、声を手掛かりに飼い主を心的に捉えていることが確かめられたが、その効果は同居のネコの場合は見られなかったことから、ネコがヒトとネコではそれぞれ異なるコミュニケーションを適用していることも考えられると研究チームでは説明する。ただし、そもそもネコは今回用いられた発声(“meow”)で個体識別をしていなかった可能性などもあることから、基本的部分の再検討をする必要もあるという。
なお研究チームでは、今後、ネコとヒトのコミュニケーションが、同じネコ同士の他個体に対するコミュニケーションとどう異なるのかなどを検討し、単独性の祖先種を持つネコがどのようにしてヒトと共生できるような社会的能力を獲得したのかなどを調べていきたいとしている。