月面の活動を視野に、新たな宇宙飛行士の募集を宇宙航空研究開発機構(JAXA)が19日、開始した。国際月探査など、将来にわたり宇宙開発を支える人材を確保する。自然科学系の大学卒業以上としていた前回2008年の応募資格を撤廃し、世界で初めて学歴や専門分野を不問に。日本に現役の女性飛行士がいないことから、女性の応募を奨励する。

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    飛行士募集について会見で説明する油井亀美也飛行士=18日、東京都千代田区の文部科学省

採用者は飛行士に認定後、国際宇宙ステーション(ISS)、米国が2020年代に国際協力で月上空に建設する基地「ゲートウェー」や月面で活動することが見込まれる。18日会見したJAXA有人宇宙技術部門事業推進部の川崎一義部長は「日本の宇宙開発史に残るミッションを行うにあたり、選ばれる飛行士や探査計画の意義や価値の納得感を国民と共有したい」と述べた。

採用は若干名。応募資格は(1)今年度末時点で実務経験3年以上、かつ(2)身長149.5~190.5センチ、両眼の矯正視力1.0以上、色覚と聴力が正常--であること。修士号取得者は1年、博士号は3年の実務経験とみなす。日本国籍を持たない者などは除外。20日から来年3月4日まで応募を受け付け、書類を含む5段階の選抜を経て、2023年2月頃に結果を発表する。JAXAはネットに募集の特設サイトを開設した。来月1日には質疑応答をする説明会をオンラインで開催する。

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    会見するJAXAの川崎一義部長(左)と油井亀美也飛行士=18日、文部科学省

通常の飛行士募集で、文科系を含めるなど学歴を不問としたのは世界初という。自然科学系の素養を、選抜時の大学教養課程程度の試験で担保することにした。川崎部長は「理系文系という区分が本当に正しいのか、区分して資格を閉ざすのは間違いではないかと議論した。必要な能力は試験で評価し、入り口の条件にしないことにした」と説明。同席した油井亀美也飛行士も「理系か文系かより、その後に積んだ経験が大きい。飛行士訓練は非常に丁寧なので、素養さえあれば大丈夫」とした。

実務経験3年以上の条件は維持したが、前回「自然科学系分野における研究、設計、開発、製造、運用など」とした分野を撤廃。泳力や普通自動車運転免許の条件も、選抜後に習得、取得することとして削除した。

2010年に15日間飛行した山崎直子さん(50)が翌年にJAXAを退職し、現役の女性飛行士の不在が続いている。意見募集でも女性の起用に関する声が目立ったことを受け、応募を奨励するキャンペーンを講じる。ただ女性の採用枠は設けず、また「公平に能力で選び、バイアスをかけることはしない」(川崎部長)。

選抜では民間企業の協力を得る。最終選抜まで残るなどした落選者も、その後の活動に役立つようJAXAが優れた能力を評価する取り組みを考えているという。

米国はゲートウェーを建設し、2025年以降にアポロ計画以来となる月面着陸を目指す「アルテミス計画」を進めている。日本も19年に参画を決定。昨年7月に文部科学省と米航空宇宙局(NASA)が、日本人の着陸機会に言及した共同宣言を発表。昨年末には、日本人のゲートウェー滞在などを盛り込んだ日米間の覚書が発効している。

NASAは今月9日、トランプ前政権が24年としていた初回の有人月面着陸を、訴訟やコロナ禍、技術的理由による遅れのため25年以降に延期すると発表した。20年代後半の計画には変更がないため、この延期は今回の募集には影響しないという。

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    アルテミス計画で月面で活動する飛行士の想像図(NASA提供)

JAXAの飛行士募集は6回目で、2008年には963人の応募者から航空自衛隊パイロットだった油井さん(51)、全日空パイロットだった大西卓哉さん(45)、海上自衛隊医官だった金井宣茂さん(44)が選ばれた。JAXAの現役飛行士は44~58歳の7人がいる。

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    会見後に撮影に応じた油井亀美也飛行士。右のマークは今回の募集活動を含め「アルテミス世代」の飛行士を応援するため新たに作成されたもの=18日、文部科学省

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