東北大学は11月17日、1か月間の宇宙滞在から帰還したマウスを解析したところ、宇宙旅行の際には腎臓が中心となって血圧や骨の厚さなどを変化させることを発見したと発表した。
同成果は、東北大大学院 医学系研究科の鈴木教郎准教授(酸素医学分野)、同・山本雅之教授(医化学分野)、JAXA、筑波大学の共同研究チームによるもの。詳細は、国際腎臓学会誌「Kidney International」に掲載された。
宇宙は地上とは違い無重力もしくは微小重力環境であり、そこで暮らしていくためには、そうした環境が人体にどのような影響をおよぼすのかを理解する必要がある。これまで、宇宙飛行士たちへの身体検査から、重力の増減に対して血圧と骨の厚さが変化することがわかっていたが、その仕組みは解明されていなかった。
そこで研究チームは今回、腎臓に着目し、宇宙旅行から帰還したマウスの腎臓を解析することにしたという。腎臓が着目された理由は、同臓器が老廃物を尿中に排泄する以外にも、赤血球を増やしたり、血圧を上昇させたり、リンおよびカルシウムの体内濃度を調節するなどの機能も備えているためだという。カルシウム濃度は骨量と相関するため、腎臓は骨の太さの調節にも関与しているという。
今回の研究では、2018年4月に実施されたJAXAによる第3回小動物飼育ミッションで、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」にて31日間飼育された宇宙飛行マウス12匹たちが用いられた。解析の結果、宇宙滞在から地上に帰還したマウスの腎臓では、血圧と骨量の調節に関わる遺伝子群の発現量が変化していることが確認されたほか、血液中の脂質が増加しており、腎臓において脂質代謝に関係する遺伝子の発現も増加していることも確認されたという。
この結果について研究チームでは、宇宙空間では重力に抵抗して姿勢を維持する必要がないため、基礎的なエネルギー消費量が低下しており、腎臓が余剰となった脂質を代謝・排泄する役割を担っていることが示唆されたとしている。
なお、今回の研究で得られたデータの一部は、東北メディカル・メガバンク機構とJAXAが共同で整備する公開データベース「ibSLS」に登録されており、世界中の研究者がアクセスし、宇宙環境が生体に及ぼす影響の研究に利用することが可能となっている。
また、宇宙旅行の際に腎臓が重要な役割を担うことが示されたことから、宇宙への渡航前に腎臓の健康状態を確認したり、薬剤などで腎臓の機能を調節したりして、腎機能を管理することの重要性が示されたと研究チームでは説明している。