北海道大学(北大)は11月16日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が免疫系から逃れ、感染を持続させるメカニズムの解明に成功したと発表した。

同成果は、北大 大学院医学研究院の小林弘一教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

新型コロナウイルスのような感染症を引き起こすウイルスは、その免疫系から逃れる手段を持っており、感染して宿主の身体の中で増えることが可能であることが知られている。

生物には、ウイルスなどの病原体から、身体を守るための免疫システムが存在しており、感染した細胞を発見すると、その細胞を破壊することでウイルスの増殖を防ぐ免疫細胞「細胞障害性T細胞」などが知られている。この細胞障害性T細胞は、感染細胞の表面に出てきたウイルス抗原を見つけると、それを目印として感染細胞の破壊を行うが、ウイルス抗原を見つけるには、抗原と一緒になって感染細胞の表面に出てくる分子「MHCクラスI」が必須であり、このMHCクラスIによる細胞障害性T細胞の活性化は、ウイルス防御にとって重要なものだと考えられている。

しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のこれまでの研究において、MHCクラスIによる細胞障害性T細胞の活性化が正常に起こるかどうかについては、実はよくわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、新型コロナ患者の喉と気管支の細胞において、MHCクラスIの量が感染時にどのように変化するかを調べることにしたという。

その結果、多くのウイルス感染では、免疫応答としてMHCクラスIの量が増えることがわかっているが、新型コロナ感染患者では、MHCクラスIの量が増えないことが判明したという。また、その原因について解析を行ったところ、MHCクラスIを増やすために必要な免疫分子「NLRC5」の量と機能が、新型コロナウイルスによって抑制されていることが判明したとする。

さらに、NLRC5の量を増やすために必要なシグナル伝達経路がウイルスによって抑制されていること、ならびにNLRC5の機能そのものもウイルスによって抑制されていることも判明。ウイルス遺伝子を解析した結果、特定の新型コロナ遺伝子がこの抑制を行っていることが判明したとする。

今回の成果は、新型コロナがどのようにしてヒトのMHCクラスI免疫系から逃れているのかを理解することにつながるものであり、研究チームでは、今後、この成果をもとに新型コロナに対して効果的な、新しい治療法の開発につながることが期待されるとしている。

  • 新型コロナ

    新型コロナがヒト気道上皮に感染する際のイメージ図。気道上皮細胞表面のレセプター(ACE2)を利用して細胞内に侵入した新型コロナウイルスは、宿主細胞に備わっている防御機構(自然免疫)を突破し、さらには細胞障害性T細胞によって感染細胞が破壊、除去されてしまうことを妨害し、増殖を続けることが今回の研究により判明した (出所:北大Webサイト)