東北大学と東京大学は11月16日、成長初期における核形成過程を解析する手法を開発し、「遷移金属ダイカルコゲナイド」(TMD)の一種である「WS2」の結晶成長が、中間クラスターを経由する新たな核形成モデルによることを明らかにしたことを発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科 電子工学専攻の加藤俊顕准教授、同・金子俊郎教授、東大大学院 工学系研究科の澁田靖准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
炭素からできているグラフェンなど、原子オーダーの厚みから構成される2次元原子シート材料が近年世界中で注目を集めている。そうした2次元原子シート材料のうち、半導体エレクトロニクス分野で注目を集めているのがモリブデンやタングステンなどの遷移金属と、硫黄などのカルコゲン原子から構成され、グラフェンにはない半導体特性を示すことが知られているTMDだという。
TMDを実用的なデバイスに活用するためには、高品質なTMDの合成技術の確立が必要だが、多くの課題が残されており、そのうちの1つがTMD原子シートの成長機構の詳細な解明だという。
特に、結晶成長の最初に形成される「結晶核」を制御することは、結晶構造全体を制御するために重要とされるが、TMDの結晶核形成過程を定量的に計測する手法が確立されていないため、核形成機構に関してはまったく分かっていなかったという。
そこで研究チームは今回、近年開発された「その場観測CVD法」を用いて、TMDの一種であるWS2の基板上における成長過程初期の様子を光学的に撮影。そうして得られた結晶成長画像を自動解析する機構を新たに開発することで、肉眼では判別が困難な初期の結晶核形成過程を詳細かつ定量的に計測することに成功したという。
具体的には、TMDの核形成が、非古典的核形成モデルによることが実証されたとするほか、今回の研究では、成長基板のみの温度を独立に制御可能な機構を採用することで、TMD核形成までにかかる時間(インキュベーション時間)が、基板温度(液体前駆体温度とほぼ同義)に依存して非線形な振る舞いをすることも判明。この現象を液体前駆体の熱活性に伴う拡散能力と、液相と固相の温度差に由来する結晶成長駆動力のバランスで決定することを熱力学的に解明したともしている。
さらに、実験的に得られた光学画像をシミュレーションに取り入れるデータ同化手法を活用することで、計算機シミュレーションの合成パラメータを定量的に議論が可能な定量的フェーズフィールドシミュレーションで再現することに成功したとのことで、これにより、実験結果を再現できた今回の計算結果をフィードバックすることで、詳細な結晶成長物理パラメータの制御が可能となることが期待できるとする。
今回の成果について研究チームでは、今後の巨大単結晶TMDの合成や、二層TMDにおける積層方位制御など、TMD結晶の高品質化につながるものであり、次世代高性能フレキシブル透明デバイスの実現に寄与することが期待されるとしている。