ガートナージャパンは11月17日、企業や組織に影響を与える「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の2022年版を発表した。同日にはプレス説明会が開かれ、トレンド選定の背景とともに、同社のアナリストによって日本企業が押さえるべき重要トレンドや組織の在り方などが説明された。

日本企業が押さえておくべき重要トレンドや組織の在り方などについては、11月16日から18日にかけて開催されている「Gartner IT Symposium/Xpo 2021」の基調講演、「次はどこへ向かうか:世界的な混乱の中で発揮すべきIT リーダーシップとは」の内容を一部引用しつつ解説がなされた。

同シンポジウムを統括するガートナージャパン バイス プレジデント アナリストの海老名剛氏は、「今回のテーマは『Reach Beyond ~非常識の、その先へ~』となる。この2年近く、世の中が変化する中で、自ら限界を定めることなく、ITを用いて限界を超えていこうとする大胆な活動がITリーダーに求められるのではないか、という思いがテーマに込められている」と述べた。

  • ガートナージャパン バイス プレジデント アナリスト 海老名剛氏

Gartnerはこれまで、テクノロジーとデータの重要性を指摘してきたが、同シンポジウムでは、テクノロジーとデータに加えて人を生かし、今いる場所に縛られずに事業を展開し、価値を生みだす重要性を指摘している。

世界の主要9カ国の企業で働く従業員を対象に実施した「Gartner 2021 Digital Worker Experience Survey」の結果によれば、フルタイムのオフィス勤務に戻りたいと考えている従業員の割合は14%に対して、オフィス勤務をまったく希望しない従業員の割合は19%であった。その結果を受けて、Gartnerではハイブリッドワークを推奨している。

また、イノベーションと価値創出のために人間中心のワークプレイスを作ること、ビジネス・テクノロジストの力を引き出すこと、社内に人材のマーケットプレイスを構築することが重要となる。先進的な企業ではすでに、そのための取り組みが進んでいるという。

  • 人材のマーケットプレースでは社内人材の有効活用と流動化が目的となる

ビジネス・テクノロジストはGartnerによる造語で、IT部門でなくユーザー部門に所属しつつも、高度なデータ分析やRPAの設計、ローコード/ノーコードプラットフォームでアプリケーションの作成といったテクノロジーを活用した業務に従事する従業員を指す。

全世界の1万2000人の一般従業員に行った調査「2021 Gartner Reimagining Technology Work Survey」によれば、IT部門に所属もしくはITが業務内容と答えた人の割合は全体の10%だった。一方、ビジネス・テクノロジストに当たる人の割合は41%だったという。

  • IT専門の人材よりビジネス・テクノロジストのほうが多くなりつつある

ビジネス・テクノロジストの活用について、ガートナージャパン バイス プレジデント アドバイザリの松本良之氏は、「IT部門のみにテクノロジーを活用した業務を任せている企業と比べて、デジタル・テクノロジストを擁する企業は5倍の人材リソースを用いてデジタルテクノロジーを活用し、業務改善や付加価値創出を実現できると言える。海外ではユーザー部門とIT部門を融合したチームや部門を作り、新たなサービス提供を進める事例も見られる。従来のように、日本企業がIT部門のみでテクノロジー関連の事業を進めていては、5対1のマンパワーの差でグローバルな競争に負けてしまいかねない」と警鐘を鳴らす。

  • ガートナージャパン バイス プレジデント アドバイザリ 松本良之氏

当然、41%のビジネス・テクノロジストのための予算はIT部門ではなくビジネス部門で計上される。別の調査「2022 Gartner View From the Boards of Directors Survey」では、40%の取締役会がデジタル投資のためにビジネス部門への予算配分を増やした、と回答しているという。

2022年版の「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」では、「成長を加速する」「変化を形づくる」「信頼を構築する」の3つのテーマ、12のトップ・トレンドが挙げられた。各テーマの背景には、2020年にGartnerがグローバルの経営者に調査した「2023から2025年にかけて優先して取り組みたいこと」から見えてきた、経営者が考える優先課題があるという。

  • Gartnerが選んだ2022年版「戦略的テクノロジのトップ・トレンド」

ガートナージャパン バイス プレジデント アナリストの池田武史氏は、「経営者はコロナ禍により想定外の停滞を経験したため、いち早い回復と成長を求めている。そして、コロナ以前からさまざまなビジネスでゲームチェンジが起こることが予想され、新しいルールでのポジショニングを考慮するうえでデジタル化に関心を抱き、デジタルにふさわしいやり方に変化しようとも考えている。当然、効率化を求める半面、プライバシーを含めて何を信頼してデータを処理していけばよいのかが課題になり、その基盤となる信頼の構築に意識を向けている」と説明した。

  • ガートナージャパン バイス プレジデント アナリスト 池田武史氏

デジタルツインやそのためのクラウド、AI、エッジの活用などに代表されるように、現在、リアルの人、モノ、システムからデータを記録、収集し、分析、予測まで一連のプロセスで実行して、よりよい意思決定、判断、提案に生かそうとする取り組みが進む。12のトップ・トレンドは、そうした取り組みの要所で必要になる技術または概念であるという。