HIROTSU バイオサイエンスは、ヒトの尿から線虫の嗅覚を用いて「早期すい臓がん」を特定することに成功したと11月16日に発表した。
すい臓がんは早期発見が非常に難しく、国立がん研究センターの統計によれば年間3万人がすい臓がんによって亡くなっている。すい臓がんに特化した検診も確立されておらず、有効な検査の開発・実用化が望まれてたという。
同社はすでに自宅で尿を採取するだけでがんの一次スクリーニング検査が可能な「N-NOSE(エヌノーズ)」を2015年から販売している。こちらも線虫の嗅覚を利用したもので、がん患者の尿の場合は線虫が集まっていくことを利用したものだ。
従来のN-NOSEは15種類のがんに反応することがわかっているものの、どのがんかの特定まではできなかったが、今回同社では、遺伝子組み換え技術を用いて“すい臓がんの匂いにのみ特別な反応を示す”特殊線虫を創ることに成功したとしている。
同社が実用化したように、線虫の嗅覚を応用したがん検査は知られているが、“がんの匂いのもとになる化学物質”の同定は医学界でも特定に至っていなかった。
そこで同社は、匂いの受容体に着目。「cr-4遺伝子」がすい臓がんの匂いの検知に関与していることを特定し、その受容体を欠損した線虫株を作製。すい臓がんの匂いにだけ反応せず、尿から逃げていくように行動する特殊線虫を作り出すことに成功したという。
「cr-4すい臓がん特定株」(cr-4を欠損した線虫)が、すい臓がんの匂いから逃げていく要因について同社の代表取締役の広津崇亮氏は「元々のN-NOSEに使用している線虫は、健常者の方の尿の匂いからは逃げ、がんの匂いには近づきます。“cr-4すい臓がん特定株”は、すい臓がんの匂いを感じることができず、健常者の尿から逃げるのと同じく、逃げていると考えられます」とした。
今回開発した特殊線虫は、すい臓がんとそれ以外のがん種を識別する能力が非常に高く、がんか健常者か見分ける精度である感度は100%、他のがん腫と見分ける精度である特異度91.3%となっているという。
広津 代表取締役は「現在提供しているN-NOSEにおいて検査システムは出来上がっているため、基礎検討・臨床研究の結果を受けてからすぐの実用化が可能です。そのため2022年後半よりも早い時期での実用化を目指しています」と早期実用化に意欲を見せた。