東京医科歯科大学(TMDU)は11月15日、アルツハイマー病をはじめとして、前頭側頭葉変性症、パーキンソン病、ハンチントン病など複数の神経変性疾患の病態に関与するタウタンパク質が、脳内ミクログリアにおいて、エイズウィルスの細胞内受容体として知られている「PQBP1」に認識され、脳炎症を誘発する分子メカニズムを発見したと発表した。
同成果は、同 難治疾患研究所/脳統合機能研究センター 神経病理学分野の岡澤均 教授、同 難治疾患研究所 神経病理学分野 の金美花 大学院生、同 大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野の塩飽裕紀 助教、同 難治疾患研究所 神経病理学分野の田中ひかり 助教らの研究チームと、富山大学ならびに創価大学の共同研究によるもの。詳細は国際科学雑誌「Nature Communications」(オンライン版)に掲載された。
タウタンパク質は、アルツハイマー病や前頭側頭葉変性症、ALS、ハンチントン病、パーキンソン病といった認知症や神経変性疾患の病態に重要なタンパク質とされている。例えば、アルツハイマー病と前頭側頭葉変性症の一部では、タウタンパク質が神経細胞の中で蓄積・凝集して神経細胞死を誘発すると同時に、タウタンパク質は神経細胞から細胞外に放出されて、脳の炎症を誘発する、あるいは脳の離れた場所の神経細胞に取り込まれるなどして悪影響を与えると考えられているが、脳の免疫細胞「ミクログリア」がタウタンパク質に対して、どのような分子メカニズムを用いて反応しているのかはよく分かっていなかったという。
そこで研究チームは今回、マクロファージに相当するミクログリアが、複数の神経変性疾患タンパク質と結合することが知られているPQBP1を介して、タウ蛋白質に対して反応しているのではないかという仮説を立てて検証を実施。マウスを用いた実験の結果、タウタンパク質はミクログリアに取り込まれた後、PQBP1と結合していること、ならびにミクログリアの中のPQBP1を欠損させると、ミクログリアのタウ蛋白質に対する炎症反応が低下することを確認したという。
特に、タウ蛋白質を脳内に注入するとマウスは認知症の症状を見せたが、ミクログリア特異的にPQBP1を欠損させたマウスにおいては、脳の炎症ならびに認知機能低下の改善が同時に確認されたという。
また、先行研究として米国Sanford-Burnham医学研究所の研究チームが、免疫系細胞のマクロファージにおいては、ヒト免疫不全ウィルスHIV(エイズウィルス)をマクロファージ細胞が検知する際の細胞内受容体としてPQBP1が機能していることを報告しているが、今回の成果は、ウィルス感染症と神経変性疾患が自然免疫において、同じ分子メカニズム(ミクログリアの感知システム)を介してミクログリア炎症を引き起こしていることを示すものであり、神経変性を自然免疫の面からコントロールする可能性を開くものであるとのことで、今後、脳のそれぞれの細胞でPQBP1機能を適切に調節することができるようになれば、神経変性疾患病態からの回復、さらには生理的状態での脳機能活性化につながる可能性も考えられると研究チームでは説明している。