大阪大学(阪大)は11月12日、光で励起される電子の集団振動「表面プラズモンポラリトン」を利用して、半導体横型量子ドットへの光子の照射をより効率的に行うことが可能であることを明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大 産業科学研究所の深井利央大学院生(研究当時)、同・藤田高史助教、同・木山治樹助教、同・大岩顕教授(量子情報・量子生命研究センター兼務)らの研究チームによるもの。詳細は、日本応用物理学会の英文学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。

GaAsやSiなどの半導体中に形成される2次元電子に対し、表面ゲート電極によって作られる横型量子ドット中の電子スピンは、その高い電気的制御性から量子コンピュータの量子ビットの有力候補として期待されているほか、量子通信への応用も期待されている。

しかし1個の光子を正確かつ高効率に数百nmほどの量子ドットへ照射して吸収させることは難しく、これまで、量子情報の変換効率は10-4~10-5程度(光子を1万回から10万回照射して1回成功する程度)と低く、研究開発を進めるうえで、その高効率化が課題となっていたという。

研究チームは今回、金属の同心円リング構造を持つ表面プラズモンアンテナを利用して、表面を伝搬するプラズモンモードにより量子ドットよりも大きなサイズに集光された光を効率よく、量子ドット直上の開口部に集光し、量子ドットへ照射する方法を開発することに成功。これにより、従来よりも単一光子からGaAs量子ドット中の単一電子への変換効率が、5~9倍程度改善されることが判明。これはナノフォトニック構造を利用し、単一光子から単一電子スピンへの量子状態変換において変換効率の向上が可能であることを示す成果だという。

研究チームでは、今回の成果を踏まえても変換効率は10-3にとどまっているが、今後、高度な量子効果の制御を伴う量子中継基盤技術の原理実証実験の実現や、表面プラズモンアンテナや別のナノフォトニック構造を利用することで、さらなる変換効率の改善が期待されるとしているほか、量子中継器の開発が前進することで、量子暗号通信の長距離化や量子ネットワークなど、量子情報の基盤インフラの開発が加速されるともしている。

  • 表面プラズモンアンテナ

    表面プラズモンアンテナにより半導体横型量子ドットへ光子を効率的に照射し、量子ドット中に電子を励起する様子が示された概念図 (出所:阪大Webサイト)