NTTや東京大学(東大)、名古屋大学(名大)などで構成される研究グループは、超伝導量子コンピュータが駆動する極低温環境で、実用的な規模の量子コンピュータを制御するのに必要な水準の消費電力、実装規模、速度、誤り訂正の性能などを満たす量子誤り訂正の手法を開発したと発表した。

同成果は、東京大学大学院情報理工学系研究科の上野洋典 大学院生、同 近藤正章 上席客員研究員(慶應義塾大学理工学部 教授/理化学研究所計算科学研究センター 次世代高性能アーキテクチャ研究チーム チームリーダー)、名大 大学院工学研究科の田中雅光 助教、NTTセキュアプラットフォーム研究所 暗号理論研究室の鈴木泰成 研究員、理化学研究所創発物性科学研究センター 超伝導量子計算システム研究ユニットの田渕豊 ユニットリーダーらによるもの。詳細は、「The 58th Design Automation Conference(DAC'21)」にて、米国東部時間12月7日に発表される予定だという。

現状の量子ビットの課題の1つはエラーが生じやすいことで、その社会実装のための計算を行っていくためにはそうしたエラーを訂正する必要があり、その手法の1つとして、「量子誤り訂正符号」が提案が提案されている。

また量子ビットの生成には複数の方法が検討されているが、その中でも超伝導量子ビットは集積可能性と設計自由度が高いため、量子コンピュータ素子の有力候補の1つとされている。ただし、超伝導量子ビットは極低温環境でのみ動作するという制約を持つため、極低温環境を作り出す希釈冷凍機の中で動作させることが求められる。しかし、量子誤り訂正符号の復号器は室温動作が基本であり、この間を膨大な配線が接続されることとなり、超伝導量子コンピュータのスケーラビリティを制限することとなっていた。

とはいえ、復号器を極低温環境で動作させようとしても、そうした環境で許容される消費電力は非常に小さいため、現実的ではなかったという。そこで研究チームは今回、高速・低消費電力で動作する「単一磁束量子(SFQ)回路」を用いて、極低温環境で動作可能な表面符号の復号器を設計することにしたという。

研究では、今回設計された復号器が十分高速に動作し、量子ビットにエラーが生じると即座に訂正を行うことで、エラーの蓄積を防ぐオンライン復号を実行可能であることが示されたとするほか、今回の研究は量子ビットの誤り訂正を極低温環境で高速に行う手法を提案するもので、これにより超伝導量子コンピュータのスケーラビリティおよび量子ビットのエラー耐性を向上することができるとしている。

  • 量子コンピュータ

    超伝導誤り耐性量子コンピュータの構成。(左)従来手法。(右)今回提案された手法 (出所:名大プレスリリースPDF)

なお、今後は、今回の研究成果の設計を具体的にチップに実装することで、量子コンピュータの量子誤り訂正が実験的に可能であることを実証していくとしているほか、今回の成果の設計を土台として、表面符号により構成された論理量子ビットで演算する機構に対応できるよう拡張するなどの課題に取り組み、そうした研究を基軸として、将来的な量子コンピュータを構成する核となる技術の基礎の確立を目指すとしている。