宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月9日、内之浦宇宙空間観測所より「革新的衛星技術実証2号機」を搭載したイプシロンロケット5号機を打ち上げた。
9時55分16秒に点火されたロケットは計画通りに飛行、搭載した9機の衛星を全て正常に分離した。今回、3回の延期はあったものの、これでイプシロンの打ち上げ成功は5機連続となった。
JAXAの「革新的衛星技術実証プログラム」は、大学・研究機関・企業の革新的な技術やアイデアを、宇宙空間で実証することを目的としたもの。今回はその2回目の軌道上実証となり、重さ110kgの小型衛星「小型実証衛星2号機」(RAISE-2)のほか、4機の超小型衛星と4機のキューブサットを搭載した。
山川宏・JAXA理事長は、「2019年1月に打ち上げた革新的衛星技術実証1号機では、すでに複数のテーマで軌道上実証の成果を踏まえた事業化が進んでいる」と報告。「今回の2号機でもさまざまな軌道上実証が行われる。革新的な成果が得られ、衛星産業の国際競争力強化や、宇宙利用の拡大に繋がって欲しい」と期待した。
イプシロンロケット5号機は当初、10月1日の打ち上げを予定していたが、直前になって可搬型ドップラーレーダーに異常が発生。すぐに問題を解決し、同7日に打ち上げを再設定したものの、今度は天候不良で延期。可搬型ドップラーレーダーは種子島宇宙センターとの共用設備のため、H-IIAロケット44号機の打ち上げを先に実施していた。
JAXAの金子豊・革新的衛星技術実証グループ長は、「9機の衛星を無事に打ち上げることができてほっとしている」と安堵の表情を見せ、「衛星はこれから、各機関で運用が始まる。まだスタートラインに立ったばかりなので、引き続き気を引き締めて運用を実施していきたい」とした。
ところでこの日は、直前になって打ち上げ時刻が変更され、事前にアナウンスされていた9時51分21秒から、ウィンドウの一番最後まで約4分間遅らせていた。この理由は、ちょうど米国の有人宇宙船「クルードラゴン」が地球に帰還中だったことから、衝突リスクを下げるためだったという。打ち上げ直前にこういった理由で時間をずらすのは極めて珍しい。
イプシロンの打ち上げは、今回が2年10カ月ぶり。前回からかなり間が空いたが、次の6号機は「革新的衛星技術実証3号機」を搭載し、2022年度の打ち上げを予定している。ただ、現行のイプシロンはこの6号機が最後となり、2023年度には、改良型である「イプシロンS」の初飛行を実施する計画だ。
現在のイプシロンの第1段は、H-IIAの固体ロケットブースタ「SRB-A」を使用しているが、H3ロケットへの移行に合わせ、イプシロンSではこれをH3の「SRB-3」に変更する予定。固体3段+液体PBSという構成は現在と変わらないものの、H3とのシナジーをさらに進めることで、打ち上げ価格の低減を目指す。
イプシロンロケット5号機の打ち上げ費用は、安全監理や消費税を含むトータルで約58億円だった。H-IIAより安いとはいえ、思ったようにコストを下げられていない。イプシロンは当初、安全監理や消費税を含まない実機価格で30億円を目的としており、まだ大きな開きがある。
イプシロンSは民間への移管も予定しており、今後国際競争力を高めるためには、コストダウンが大きな課題だ。
イプシロンロケットの井元隆行プロジェクトマネージャは、「イプシロンSでそれ(30億円)を達成していく予定」と見通しを述べた。