神明ホールディングスは11月5日、東果大阪、日本電信電話(NTT)、西日本電信電話(NTT西日本)、NTTアグリテクノロジーらと共に、農作物の流通コストやフードロス、温室効果ガスの削減など、地球環境問題の抑制に貢献することに合意したとして、記者会見を催した。
日本の食料自給率は4割未満、国内の農業における課題
会見の冒頭、神明ホールディングスの藤尾益雄氏が日本の農業と食をとりまく環境と課題について、「農業就労人口は1995年から現在までに280万人減少している上、平均年齢が67歳を超えるなど高齢化も著しい状況である。耕作放棄地も年々拡大しており、現在は42万ヘクタールを超えている。これは富山県に匹敵する面積であり、国内の資源の無駄遣いだと感じている」と説明した。
さらに、現在の日本国内の食料自給率はカロリーベースで37%と、欧米の諸外国と比較しても顕著に低いことが明らかになっている。1960年には80%だったのだが、半分以下にまで低下しているとのことである。その中でも米は97%、野菜は80%と比較的高い自給率を保っており、同氏は国内で生産可能な米と野菜の効率的な生産に注力する必要があるとしている。
一方で、世界に目を向けると人口が増加傾向にあるため食料需要が高まっており、2050年までに60憶トンの食料が必要になるとの試算もある。こうした中では、日本は他国に食料を買い負けるリスクもあると同氏は指摘した。
「米と野菜は日本国内で唯一生産できているものである。将来的に世界規模で起こり得る食料危機のリスクに備えて日本の農業を守らなければいけないと考えているが、農作物農家がもうからない現実や、リタイアの増加、後継者不足といった現実が今後も続けば、日本も食糧危機に陥る危険性がある」(藤尾氏)
こうした背景を受けて同氏は、日本の農作物の生産および流通における課題を見直すことで、生産者と流通業者と消費者が「三方よし」の関係となる、もうかる農業を目指す必要があると語った。そこで、神明ホールディングスのグループ企業である東果大阪と共に、NTTグループと共同で青果流通における課題解決への取り組みに至ったとのことだ。
1971年の卸売市場法公布以降、青果流通の仕組みは50年間変わっていないという。同法によって、JAなどの業者が送る青果を卸売業者が拒否できない規制となっているため、需要に反した量の青果が卸に集まる場合や、反対に必要量をまかなえない場合も頻発している。需要に応じた流通が行えないことで、流通の各点において無駄が生じているとのことだ。
東果大阪の森口俊彦氏は、「農作物は単価が低いため、相対的に物流費率が高い点が特徴である。キャベツの場合、1玉156円のキャベツのうち約22%に相当する35円が物流費だ」と補足した。工業製品の物流費が5%程度である点を鑑みても、農作物の物流における特徴がうかがえる。
仮想市場での仮想競りを実現する、NTTのIOWN構想とは?
NTTの常務執行役員である川添雄彦氏は会見の中で、「単なる効率化のためにデジタル化があるのではなく、新しい価値を生み出すデジタル化に取り組まなければならない」と述べた上で、価値を生み出すための基盤技術としてIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を紹介した。
IOWN構想とは、光技術を中心とした革新的な技術を活用して、低消費電力ながらも従来のインフラを超えた高速で大容量な通信を可能とするネットワーク、および情報処理基盤の技術群である。「オールフォトニクス・ネットワーク」「デジタルツインコンピューティング」「コグニティブ・ファウンデーション」の3つの主要技術分野で構成される。
「このIOWN構想を用いて、生産から流通に至るまでの国内の諸課題を解決したい。また、それによって日本の農業を持続可能なものにしていきたい」(川添氏)
具体的な取り組みとして「仮想世界による未来予測技術の検証」「現実世界における人員の効率化」「フードバリューエクスチェンジのための品質評価技術の検証」に取り組む。仮想世界では、デジタルツインコンピューティングを用いた予測技術によって、相対取引や競りを仮想化する予定だ。気象情報や過去の取引データに基づく生産予測に加えて、消費動向の変化や価格の変動を捉えたクラスタリングによる未来予測などの技術を検証する。
現実世界においては、ライフスタイルの変化によって野菜のカットや個包装などの需要が高まっていることを受けて、農産物の加工を一元的に請け負う加工工場を市場近隣に整備するとともに、仮想世界で算出する予測情報をもとにした現実世界の効率的な人員や輸送車の配置を図る。
仮想世界と現実世界の橋渡しを行うことによって、生産者は需要予測に基づいた生産計画が立案できるようになるなど、農作物の価値変化を試みる取り組みがフードバリューチェーンエクスチェンジだ。これによって、生産者は収益の安定化を図りながら物流コストの低減が可能となる。卸売業者では計画的な人員配置が実現できるほか、小売業者は生産者の生産情報を基に販売計画を立案しながら従来以上に鮮度の高い野菜が手に入るなど、流通に関わる全てのステークホルダーが恩恵を受けられるのだという。