米国立電波天文台(NRAO)は10月27日、アルマ望遠鏡を使っておとめ座銀河団を観測する研究プログラム「Virgo Environment Traced in Carbon Monoxide Survey(VERTICO:一酸化炭素サーベイによるおとめ座銀河団環境調査)」を実施した結果、宇宙の極限環境が銀河から星を作るための冷たいガスを引きはがすという深刻な影響を与えており、多くの銀河で星が形成されなくなっていることを示すこれまでで最も明確な証拠を確認したと発表した。

同成果は、カナダ国立研究評議会プラスケットフェローのトビー・ブラウン氏(論文筆頭著者)、カナダ・マクマスター大学のクリスティーン・ウィルソン特別教授らの国際研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載される予定だという

VERTICOは、星の形成と宇宙における銀河の役割をより深く理解することを目的として実施された研究プロジェクト。多くの銀河が自らの環境によって星形成活動を止められていることがわかっており、その理由を明らかにするためのプロジェクトでもある。VERTICOにより、どの物理的プロセスが分子ガスに影響を与え、それがどのように銀河の“生死”を左右するかということが、これまで以上に明らかになったという。

たとえば天の川銀河の場合、星の数は少なく見積もられた場合でも1000億個以上、多い場合は4000億個ともいわれ、その誕生、進化、そして死(星形成活動の終焉)は、その銀河が宇宙のどこにあって周囲の環境とどのように相互作用しているかに大きな影響を受けるという。

銀河は複数集まって銀河群や銀河団を構成する。天の川銀河の場合はアンドロメダ銀河や大小マゼラン雲など、50~60個ほどの銀河と共に局所銀河群(局部銀河群)を構成している。そして、その隣にあるのが、おとめ座銀河団で、宇宙の中でも、銀河団は最も過酷な環境であり、銀河の進化を研究する天文学者にとっては特に興味深い場所だという。

おとめ座銀河団は2000個の銀河を擁しており、その大きさと約6000万~6500万光年という近さから、数ある銀河団の中でも研究しやすい対象とされている。またこの2点以外にも、星を作り続けている銀河の数が比較的多いという観測に適した特徴がある。

VERTICOでは、おとめ座銀河団に属する51個の銀河のガスに対し、これまでにない高解像度での観測を実施。その結果、銀河全体が星を形成するのを止めてしまうほど、周囲の環境が過酷であることが明らかになったとした。

  • アルマ望遠鏡

    おとめ座銀河団の様子。VERTICOプロジェクトによりアルマ望遠鏡で観測された分子ガス円盤が20倍に拡大されている。また、おとめ座銀河団内の高温プラズマのX線画像と合成されている (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Dagnello (NRAO)/Böhringer et al. (ROSAT All-Sky Survey) (出所:NRAO Webサイト)

おとめ座銀河団の特徴は、100万度のプラズマ、極端に高速の銀河、銀河とその周囲の激しい相互作用があることに加えて、“引退した銀河のたまり場”あるいは“銀河の墓場”とも呼べるような場所が混在する、近傍宇宙の中でも最も極端な領域だと研究チームでは説明しており、こうした極端な環境によって銀河のガスが引きはがされることにより、宇宙で最も重要な物理的プロセスの1つである星の形成が阻害されるメカニズムが判明したとする。このガスの引きはがしに対し、論文主著者のブラウン氏は「銀河の星形成を停止させる最も壮大で暴力的な外的要因の1つ」と評する。

  • アルマ望遠鏡

    NGC 4567とNGC 4568は、地球から約6500万光年の距離にあるおとめ座銀河団に属する銀河。両銀河は、銀河団内に満ちるガスの影響を受け、星形成を停止しようとしていると考えられている。この画像では、アルマ望遠鏡が電波で観測した分子ガスの広がりが赤色/オレンジ色で、ハッブル宇宙望遠鏡の光学データで撮影された星が白色/青色で合成されている (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S.Dagnello (NRAO) (出所:国立天文台アルマ望遠鏡プロジェクトWebサイト)

また、今回の研究で得られたデータには、環境が銀河にどのような影響を与え、それによって銀河がどのように星形成活動を停止するのかという、残された謎を解明するための手がかりが含まれている可能性があるともいう。

  • アルマ望遠鏡

    おとめ座銀河団に含まれる銀河の1つ、渦巻銀河NGC 4254。この画像では、アルマ望遠鏡が電波で観測した分子ガスの広がりが赤色/オレンジ色で、ハッブル宇宙望遠鏡の光学データで撮影された星が白色/青色で合成されている (C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S.Dagnello (NRAO)(出所:国立天文台アルマ望遠鏡プロジェクトWebサイト)

なお、ウィルソン特別教授は、「銀河団の環境が銀河内の分子ガスにどのような影響を与えているのか、また、それらの環境が銀河の“死”にどのような影響を与えているのかについては、長年にわたり多くの疑問がありました。我々にはまだやるべきことがありますが、VERTICOによってこれらの疑問にきっぱりと答えることができると確信しています」とコメントしている。