ソフトバンクは11月2日、2021年6月に開設した「ソフトバンク次世代電池Lab.」(SB次世代電池ラボ)の成果として、(1)「高質量エネルギー密度に向けた全固体電池用正極材料の開発」、(2)「マテリアルズ・インフォマティクスによる有機正極材料の容量予測モデルの開発」、(3)「質量エネルギー密度520Wh/kgセルの試作実証」の3点に関してそれぞれ成果があったことを発表した。
同成果は、(1)に関しては住友化学および東京工業大学(東工大)の菅野了次教授と、(2)に関しては慶應義塾大学(慶大)の緒明佑哉准教授と、(3)に関しては米・Enpower Greentech社それぞれとの共同研究によるものだとしている。
リチウムイオン電池(LIB)の安全性向上などを目的に、全固体リチウムイオン電池の実用化が求められている。今回、SB次世代電池ラボが住友化学および東工大の菅野教授と共同で開発することに成功したのは、その固体電解質用の正極。固体電解質でありながら、電解液に匹敵するイオン伝導度を有する「Li10GePS12」系固体電解質に、今回開発された高容量のリチウム過剰系正極活物質を正極材料として組み合わせることで、高い安定性と高容量化の両方を達成できる見込みが得られたとした。
開発された正極活物質は250mAh/gを上回る高容量で、これは既存の高容量タイプの正極材料であるニッケル酸リチウム(NCA)や、三元系正極材料(NCM)などの容量(約220mAh/g)を上回る性能とのことで、今後、HAPS(成層圏プラットフォームシステム)などの極度な環境にも対応できるバッテリーとしての活用が期待されるとしている。
またLIBの正極については、コバルトなどのレアメタルを多く含んでいる点が改善すべき点として挙げられている。正極材料を、容易に入手できる軽元素のみで構成される有機材料に置き換えることができれば、軽量化(=質量エネルギー密度の向上)、レアメタルフリーによるコスト削減、サプライチェーン問題の解決、生産時の環境負荷が低くなるなど、いくつものメリットを得られる。こうした状況から、近年は、有機正極の高性能化や新規物質の探索が世界的に進められている。
しかし、課題は有機化合物の総数の膨大さで、実に10の60乗個ほど存在すると見積もられているという。そこから電池材料に使用可能な化合物を絞り込み、すべての化合物の性能を検証することは非現実的であり、近年では機械学習を用いた材料探索手法であるマテリアルズ・インフォマティクスに注目が集まっている。しかし、これも、学習や探索に必要なビッグデータ(元データ)の入手が容易ではなかったり、正極材料は分子構造や材料特性以外にも考慮すべきパラメーターが膨大であるといった課題があったという。
こうした背景の下、SB次世代電池ラボと慶大の緒明准教授が共同研究を行ってきたのが、マテリアルズ・インフォマティクスと化学的考察を併用して重要度の高い記述子を絞り込むという手法であり、この結果、50個という少ない文献データから優れた外挿精度を持つ性能(電位・容量・エネルギー密度)の予測モデルを構築することに成功。このモデルを用いることで、1000Wh/kgを超えると予測される、正極材料の候補となる化合物を数種類発見することにも成功したとしている。
そして、SB次世代電池ラボと、Enpower Greentechが共同開発した質量エネルギー密度520Wh/kgセルの全固体LIB(Enpower Japanでは「リチウム金属電池」と呼称)の試作モデルについては、ソフトバンクとEnpower Greentechが2021年3月に発表した450Wh/kg級全固体LIBの進化版に位置づけられるもの。
独自開発されたリチウム金属の界面制御技術と電解質/液技術を活用することで、電池設計上は非活物質の使用比率を低減しつつも、バッテリーとしての充放電安定性を維持することに成功したという。
今回の試作品の電池容量は3600mAhと、スマートフォンなどで使用されている現行の液系LIBと同等となっているが、重量も体積もその半分となっており、同等の重量もしくは体積とした場合は稼働時間を延ばすことが可能となるとしている。今後は、電池単体の設計容量を10Ah台に上げ、新規高電圧高容量正極材を採用することによって、さらなる高エネルギー化を実現するとしている。
なお、今回の試作品の高エネルギー密度を実現する鍵となった「リチウム金属負極」技術については、今回実証に成功した電池性能も含め、2021年11月30日~12月2日にパシフィコ横浜で予定されている第62回電池討論会にて、Enpower Japanより発表が行われる予定だという。
また、ソフトバンクは、今回の共同研究で得られた技術などについて、SB次世代電池ラボを活用しながら、継続的にセルの大型化や容量・サイクル数の向上などに取り組み、次世代電池の実用化を目指していくとしている。