シスコシステムズは11月4日、2022年度事業戦略説明会を開催した。今年に代表執行役員社長に就任した中川いち朗氏は冒頭、「当社の会計年度は8月から始まるため、今は第1四半期が終わったばかりだが。前年対比で大きく成長できた。シスコを今までのネットワーク、インフラの会社から、企業のビジネスや社会を変える会社、未来への懸け橋になる会社に変えたいと思っている」と語った。
中川氏は前期ビジネスについて、「ビジネスポートフォリオを大きく変革した一年だった。デジタル変革が進む中、企業は最新のテクノロジーをいち早く導入して活用することを迫られている。そのため、企業のITシステムは構築型から利用型へシフトしており、構築後も迅速に定着・活用の支援を必要としている。こうした背景から、われわれは製品のソフトウェア化、クラウド化、システムのライフサイクル全体にわたり、導入後の活用・定着・最適化までサポートするカスタマーサクセスサービスを充実させてきた」と説明した。
グローバルの数字にはなるが、2021年度の総売上において、ソフトウェアの割合は30%、ソフトウェア・サービスの割合は53%に達しており、いずれも2017年度に設定した目標を達成している。これまで、シスコと言えばネットワーク機器のベンダーというイメージが大きかったが、冒頭に中川氏が話した通り、確実にハードウェアを中心とした企業から脱却しているようだ。
中川氏は日本の重点戦略について、「今年2月に説明した戦略とフレームワークは変わらないが、今回、具体的、かつ長期的な視野で取り組むべく、2022年度から2024年度の3カ年の計画に発展させた。この戦略を策定するにあたっては、日本の市場や現場の意見を反映し、現場の実行を伴った戦略とするため、組織を越えた100人のリーダーが集まった。この戦略はワンシスコで議論をした結果であり、ボトムアップとトップダウンで作った結果でもある」と述べた。
シスコの重点戦略は「日本企業のデジタル変革」「日本社会のデジタイゼーション」「営業・サービスモデル変革」「パートナーとの価値共創」の4つの柱から構成されている。
中川氏は、「日本企業のデジタル変革」からは、「業界ソリューション」について詳しく説明した。業界ソリューションにおいては、「製造」金融「流通サービス」「公共」を重点強化インダストリーとし、ユースケースによる業界別アプローチを強化するとともに、業界別ソリューションを整備し、事例化を推進していく。そのために、LOBやCIO以外の経営層にアプローチするなど、顧客へのアプローチも変えるという。また、ユースケースの開発については、専門チームを立ち上げるとのことだ。
「日本社会のデジタイゼーション」の施策としては、カントリー・デジタイゼーション・アクセラレーション(CDA)が紹介された。これは、シスコが事業展開する国々への中長期的なコミットメントと投資を実施し、デジタル化を通じて国の課題解決や経済成長への積極的な関与と貢献を行うプログラムだ。
中川氏は日本において、CDAをバージョンアップして、「CDA 2.0」として推進すると述べた。「CDA 2.0」では、「持続的社会」「社会インフラ」「業界エコシステム」を戦略領域として、自治体サービスのサービス化、小売業の無店舗などエコシステムの構築などに取り組む。
「営業・サービスモデル変革」の施策としては、「カスタマーエクスペリエンス」が紹介された。中川氏は、「われわれはシステムのライフサイクル全体を支援する。システムの導入はスタートであり、その後の利活用こそ、顧客に価値を提供できると考えている。コロナ禍での働き方改革が進み、導入時には想定しなかったシステムの使い方が生まれている。そうしたチャレンジに対し、導入したシステムの機能を最大限に生かすための支援を行っていく。運用に関しては、お客さまの運用を支援する、われわれが運用を引き受ける、パートナーから同様のサービスを提供するなど、柔軟なオファリングを整備している」と説明した。
パートナーについては、マネージドサービスに関するパートナーの拡充を進める。特に、クラウド、Managed SD X、インキュベーションに関連したパートナーの拡大に努める。中川氏は、「シスコは2020年度に成長戦略の柱にクラウドのマネージドサービスを据え、サービスプロバイダーとMSSを開発する専任チームを立ち上げた。その後、2年間で、ビジネスを2倍以上に成長させた。2022年度は、このチームをパートナー事業に移管し、新たにMSSプロバイダーチームとして再編・拡大し、発足した」と、クラウドのマネージドサービスのパートナー事業について説明した。
さらに、これらを基盤として支えるのが「変化に即応できるプラットフォーム」となる。中川氏は、「これからは、VPNからインターネットを中心としたネットワークに代わる。そこでは、可視化、分析、自動化、全体最適化することが重要」と述べ、「Cisco Digital Network Architecture」(DNA)によって新しい企業ネットワークのアーキテクチャを構築するとした。DNAは、マルチアクセス、マルチクラウド、インテントベース、ゼロトラストという特徴を備えている。
「インテントベース」とは、ユーザーの意図に応じたネットワークのポリシーをビジネスの視点で自動的にエンドツーエンドで自動的変更することを可能にすることを意味する。
中川氏は説明会で、スイッチやルータなどのネットワーク機器のビジネスについてまったく説明することなく、「ネットワークのインフラベンダーではない」と繰り返していたが、これからシスコのネットワーク機器はどうなるのだろうか。
この点に対し、中川氏は「ソフトウェア会社になるわけではない。ネットワーク機器の開発は継続する。これからはソフトウェアのバリューを増やしていくことに注力していくので、ソフトウェアが売上を占める割合は増えていくと考えられる。ソフトウェア・サービスにビジネスがシフトするにあたっては、社員もマインドセットを変えていく必要があり、中長期の顧客との関係作りに注力しなければならない」と語っていた。