Analog Devices(ADI)の日本法人「アナログ・デバイセズ」と同社のアライアンスパートナー「サクラテック」は11月4日、共同開発したミリ波レーダー技術を活用した非接触型振動センサ「miRader CbM」に関する説明会を開催。実機デモを交え、同振動センサの特徴を紹介した。
「Condition based Maintenance(CbM:状態基準保全)」は、設備/機器の状態を監視し、その消耗状況を把握し、必要に応じて劣化したものだけを交換していく保全手法。近年のAI技術の発展により、予知診断/予兆保全が可能となってきたことから、注目を集めつつある。
工場設備や製造装置などの状態監視として用いられるデータとしては振動に伴うものが多い。その振動も、数Hz~1kHz程度の低周波の場合、軸のアンバランスやミスアライメントで生じる場合が多く、一方1kHz~数十kHzの高周波の場合、ベアリングや歯車の傷などで生じる場合が多いことが分かっており、特に初期の劣化はこうした高周波から発生するため、高周波の振動を検知することが重要視されるようになっている。
従来、一般的なCbMによる異常検知はMEMSを用いた加速度センサが用いられているが、高周波に対応する加速度センサ(データロガー含む)は比較的高価であったり、10kHzを超すような高周波では、ケーブルや筐体などの機械共振を抑制することが難しく、センサの持つ性能をフルに発揮できないといった課題があるという。また、設置する機械の表面が数百度といった高温になる場合、センサの耐温度範囲を超えるため、取り付けることができない、という問題も生じることもある。
一方の非接触型は、装置近くにおいて利用するタイプのもので、レーザードップラー方式を採用したものなども存在している。今回、ADIとサクラテックが共同開発したmiRader CbMもそうした非接触型振動センサに位置づけられるもので、ADIの自動車などでも活用されている79GHz帯のミリ波レーダー用送受信IC(MMIC)を活用することで、レーザードップラー方式と比べてかなり安価に実現できるようになるという。
具体的なデータの取得手法としては、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数連続変調)方式を採用し、対象機器にミリ波を照射。送信周波数と受信周波数の差分(ビート周波数)は距離に換算できるほか、ビート周波数が機械振動による 微小変位の影響を受け、位相が揺れる、それをモニターすることで振動の変位量を求めることができるようになるというもの。高周波振動の測定にはサンプルレート(ランプ信号間隔)を高くする必要があり、miRader CbMに搭載したADIのMMIC「ADAR690x」では数十μs間隔で送信が可能だという。
また、測定範囲を絞る必要があるため、新たに視野角(FoV)±3°の専用レンズアンテナも開発。ターゲットの大きさにもよるが、検知距離約5mで50cm×50cmのスポットを計測することを可能としたという。さらに、サクラテックがレーダー専用の信号処理IPを開発。MMICと共に搭載されている演算処理用の「Zynq-7000シリーズ」(Xilinx製)に実装させることで、信号処理能力を向上。SDRアーキテクチャを採用することで、ソフトウェアAPIにより、アップグレードやカスタマイズを容易に行うことも可能としたという。
業務用計測器メーカーのIMVが先行して行った試験では、2kHzの振動を0.03μmの変位量検知精度で補足できたとのことで、これは100G加速度時に換算すると40kHzの振動周波数と同等となるとしている。
なお、miRader CbMは現在、折からの半導体不足の影響で、TSMC 28nmプロセスのZynq-7000の入手が難しい状況となっており、量産出荷は未定としている。
また、評価用途向けとしてはセンサ本体のみならず、リファレンスアプリケーションソフトウェアも用意。測定ソフトを改めて開発することなく、振動シビリアティ判定や振動周波数のピーク値、変位量の測定値などを調べることが可能となっている。
実際のアプリ表示にはPCとEthernet(PoE対応)で接続して利用する必要があり、サクラテックならびにマクニカから20万円程度(税別)で提供していきたいとしている。