千葉大学、北海道大学(北大)、大阪市立大学(大阪市大)、大阪大学(阪大)の4者は10月29日、誘電体(絶縁体)のナノ微粒子が分散して存在する液膜に光渦レーザーを照射する「光渦レーザー誘起前方転写法」を開発し、青から青緑の構造色を示すフォトニック構造のマイクロリングを印刷することに成功したと発表した。
同成果は、千葉大 分子キラリティー研究センターの尾松孝茂教授、同・桑折道済准教授、北大大学院 工学研究院の山根啓作准教授、大阪市大大学院 理学研究科の柚山健一講師、阪大大学院 基礎工学研究科の川野聡恭之教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ構造と光子の相互作用に焦点を当てた独・学術誌「Nanophotonics」に掲載された。
「レーザー誘起前方転写法」(LIFT)は、単一レーザーパルスを液膜に照射して印刷したい物質(ドナー物質)を吐出させて転写するという印刷技術だ。ノズルを使うノズルジェット印刷とは異なり、高濃度で高粘度なドナー物質でもノズルの目詰まりの心配がなく印刷できるため、次世代プリンタブルエレクトロニクスの印刷手法として期待されている。
しかし、LIFTは印刷できるドットの形状やドット内のドナー物質の空間分布を制御することは原理的に不可能という課題があるという。
そこで研究チームは今回、これらの課題を克服するため、「光渦(ひかりうず)」と呼ばれる特殊なレーザー光を用いた「光渦レーザー誘起前方転写法」(光渦LIFT)を考案。実際に、誘電体ナノ微粒子分散液膜(1nm)にナノ秒光渦パルスを照射することで、青から青緑の構造色を示すマイクロリングの直接印刷に成功したとする。この構造色は、誘電体ナノ微粒子の三次元最密充填効果によるものだという。
実験で示された誘電体ナノ微粒子からなるマイクロリングがレシーバ基板上に印刷されたが、その仕組みとしては、吐出された液滴が光渦の軌道角運動量によって自転運動しながら飛翔した結果、誘電体ナノ微粒子が液滴中で遠心力を受けてリング状に高密度充填されてマイクロリングを形成したという。また、ドナーが金ナノ微粒子の場合、液滴の自転運動に加えて、金ナノ微粒子が光渦の円環に対してしりぞけあうような力を受けるため、液滴の中央部に捕捉されて、ナノコアとして印刷されることも確認したという。
また、金ナノ微粒子分散液に光渦LIFTを適用すると、光渦の位相特異点(光の暗点)に捕捉された単一金ナノ微粒子がナノコアとして印刷されることも確認されたとのことで、今回開発された技術について研究チームでは、光を使いながら、単一金属ナノ微粒子をサブミクロンスケールの空間分解能で所望の位置に印刷できる技術となるとしている。
なお、研究チームによると、光渦LIFTが作るマイクロリングやナノコアは、マイクロリングレーザー、プラズモニックナノアンテナといった次世代の光通信やバイオセンサなどのデバイス開発への展開が期待されるとするほか、将来的には、光渦を照射するだけで、複数のナノ微粒子が混合した溶液から誘電体ナノ粒子や金属ナノ粒子だけを、選択的に空間分離して抽出できる(物質の誘電特性を識別できる)「光渦ナノ粒子ソーティング」への応用も可能だとしている。