NTTコミュニケーションズが10月20日に開催したオンラインイベント「NTT Communications Digital Forum 2021」から、同社ビジネスソリューション本部Data.Camp General Managerの徳田泰幸氏とTORiX代表取締役の高橋浩ー氏の、「AI(人工知能)+データを活用したB2Bセールス改革、これからの『無敗営業』とは?」と題する対談の内容を紹介する。
「セールス・イネーブルメント」に取り組むNTT Com
高橋氏は「無敗営業」や「気持ちよく人を動かす」といった著書があり、同氏のTwitterやClubhouseは人気を博しているという。
まず徳田氏から、NTT Comのセールス・イネーブルメントへの取り組みの紹介があった。 同社は2017年頃から取り組んでおり、営業改革について顧客とのディスカッションや有識者との議論を重ねているという。
自社の紆余曲折やしくじりも含め積極的に発信し、「最終的には、日本のセールス・イネーブルメントの成長に貢献できるような形になればいいなと思っています」(徳田氏)との希望を持っているとのこと。
コロナ禍で営業スタイルはどう変わったか
最初の話題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による営業スタイルの変化について。高橋氏はよく聞くようになった営業課題として、対顧客・対社内でそれぞれ3点を挙げた。
顧客に関する課題には、アポイントメントが取りづらくなるなどコンタクト面での課題がまずあり、続いて、顧客側での検討の優先順位が下がり案件が消滅しやすくなった点があるという。
オンラインとリアルのハイブリッド営業に取り組んでいる会社も増えているが、ITリテラシーの問題でうまくいかないとの声を、高橋氏はよく耳にするそうだ。
社内に関する課題では、リモートワークにより社内活動が見えなくなった、コミュニケーションが希薄になりやすい、SFAやCRMといったデジタルツールをうまく使いこなせないとの声が多いとのこと。
ハイブリッド・セールスでの注意点は?
対談は、寄せられた質問に沿う形で進められた。
まず、「オンラインとリアルのハイブリッドで行うセールスで気を付けて行くべき点はどこか?」との質問に対して、高橋氏はデジタルツールを使いこなす以前の段階で苦しんでいる会社が多いと指摘し、マネージャーが見ている視点を3つ列挙した。
受注件数や売上など結果を重視するマネージャーが率いる組織では、期末に売上を積み上げ帳尻を合わせることがよくあるという。訪問やアポイントの件数を報告させている場合は、その件数こそ多いが成果に結び付かない場合が多いという。
ツールの導入後も、効果は使い方次第だと高橋氏は説く。
メンバーの仕事をしやすくするために使えば、メンバーをほめる機会が増えるという。一方、マネージャーの負担を減らす使い方では監視ツールのようになり、メンバーを叱責する機会が増えるとの指摘だ。
徳田氏は、ツールが本来の方向性と違う使われ方をして現場が苦しむ話をよく耳にすると語り、0から3の4段階あるセールスDXのうち、目指すべきは第3階層だと語る。
「経営者の目線でも現場目線でも成果が実感できるように進めないと、次のハイブリッド・セールスは難しいんじゃないかと思います」(徳田氏)
「次の一手」を示唆する取り組みも
続く質問は、「これからの時代、データ利活用やAI活用の可能性は?」。これについては、まず徳田氏が自社の取り組みを、データのインプットと拡張分析に分けて説明した。
データのインプットでは、入力支援によりデータの蓄積をしやすくしているという。例えばチャットボットによるSFAの導入や、Outlookからの直接データ入力などだ。また、BANTCやShipley、SPINといった営業ノウハウのSFAへの実装や、ハイ・パフォーマーへのインタビューによる営業知見の収集も行っているとのこと。
拡張分析では、単に経営の指標にとどまらず、営業にヒントを与えるデータを出す取り組みを進めているという。
具体的には、AIの予測モデルとして機械学習を試行しており、顧客が興味を持ちそうな自社の製品・サービスなどや、同様の受注をしておりアドバイスを得られそうな人などの示唆を示し、使用している営業スタッフからは概ね好評とのことだ。
「勝ちパターン」作りが成功へのキーポイント
3番目の質問は、「オンラインとリアルのハイブリッドのセールスや、AIやデータを活用した次代のセールスにおいて、我々は何を最初にやっていくべきか」
高橋氏は、疲弊する「競争」に巻き込まれる組織と、顧客との間や社内で幸せな「共創」ができる組織それぞれの流れを示し、「勝ちパターン」作りが重要だと説く。また、勝ちパターンは企業や組織により異なるが、いつ行動するかのタイミングが重要であり、それが分からず苦労しているケースが多いという。
多くの企業では、営業が頑張るポイントでは実は手遅れになっている場合が多いと高橋氏は指摘する。
徳田氏が先に示した示唆システムは、「勝ちパターンとして、本当はもっと手前段階で行動しておくべきだということを、組織の共通言語とできるかどうかだと言い換えることができます」と高橋氏は語った。
徳田氏は、自社の取引相手からSFAやCRMの導入に関する相談を受けることが多いという。 そして、高橋氏が示した4隅の図で、「活動の実態が見える」の重要性に気付かされたとのこと。
「勝ちパターンの有無は肝だと思います。可視化において何を可視化すべきかわかっていないと、何を説明しても理解してもらえないことがよくあります」(徳田氏)
これからのセールスでは「共創」がキーワードに
最後の質問は徳田氏からで、「これからのセールスはどう変わっていくのでしょうか」だ。
高橋氏はまず、従来の営業は「ズレ」の世界だと指摘する。つまり、顧客と営業担当、あるいは社内の上司と部下の関係だ。
コロナ禍で急に取引先と会えなくなったのはその典型で、従来は取引先が、半強制的に営業のプッシュの活動に付き合わされていたとも考えられると指摘する。
取引先にも選ぶ権利があり、連絡したい営業担当には連絡するが、それ以外とは合わないという、そのズレが露呈したのではと高橋氏は語る。
今後、先を見通せない時代では、自分たちには見えていなくても、将来の可能性をどれだけヒントとして拾えるかがカギになるという。
高橋氏は、あるべき姿は「適切な共犯関係」だと提言する。例えば取引先と、当初は予定していなかったが議論を進めるうちに新しいものができたり、社内のコミュニケーションでは、上司が想像していなかったことを現場のメンバーが自律的に動いて実現したりといった、全員が当事者として夢中になり新しい価値が生まれるという関係性だ。
徳田氏は、共創という言葉を自身も最近よく耳し、今回のイベントでも共創に関するブースを用意していると語る。
企業の現状を尋ねられた高橋氏は、リモートワークやコロナ禍により社内の状況が見えるだくなったと嘆くマネージャーもいるとしながらも、「現場の裁量が大きくなり、手元に正しい事実があればいいものを現場発で作っていける状況になってきていると思います」と指摘した。
対談のまとめとして、徳田氏はまず自社が顧客やパートナー企業との共創ビジネスに取り掛かり始めたところだと語る。
一方でデジタルとリアルの2軸が出現してきたことで、社内(営業)/社外(顧客やパートナー企業)とデジタル/リアルの4象限で今後の動きを考えているという。
まず社内/社外それぞれの括りでは、デジタルとリアルがハイブリッドになっていくと徳田氏は見る。 ここでは、データ・ドリブンな進め方や、適切なコミュニケーションが可能となる示唆の提示などが、フレキシブル/ハイブリッド・ワークを推進する要素になりそうだとの見通しを語る。
顧客やパートナー企業などとの関係では、リアルを含めて多様なパターンでの接点ができていくと見ており、「その接点に対して、我々が何で価値を出せるのかといったところを考えていかないといけないと思いました」(徳田氏)と、今後のハイブリッド・セールスに対する考え方を示した。
最後に徳田氏は、高橋氏の話や一般からの質問など多くの話を聞くことができたことに感謝し、「これから、またいろいろなお客様と一緒に議論を進めていく中で、ぜひ高橋さんとも一緒に、いろいろ進められればなと思っておりますので、これからもよろしくお願いします」と対談を締めくくった。