脳が食欲や代謝を制御するのに重要な役割をするタンパク質を発見した、と沖縄科学技術大学院大学の研究グループが発表した。このタンパク質が脳で欠けると食欲が旺盛になり、肥満となることがマウスの実験で明らかになったという。研究グループは多くの病気をもたらす肥満に対する治療法につながる可能性があると期待している。

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    食欲旺盛なマウスのイメージ画像(沖縄科学技術大学院大学提供)

世界中で6億5000万人以上の成人が肥満とみられ、肥満は循環器病や2型糖尿病など多くの病気と関係している。このため国を問わず、肥満対策が重要な健康、医療問題になっている。研究グループによると、肥満は食物の摂取量とエネルギー消費の不均衡により起こるが、脳がどのように食欲や代謝を制御しているかについてはほとんど解明されていなかった。

同大「細胞シグナルユニット」の山本雅教授や栁谷朗子研究員らは、メッセンジャーRNA(mRNA)分解の最終段階を制御し、遺伝子活性に重要な役割をしている「XRN1」というタンパク質に着目した。mRNAの分解速度によってタンパク質の合成量が増減するためだ。

研究グループは脳(前脳)の一部でXRN1を欠損したマウスを作製して実験した。その結果、脳内にXRN1がないマウスは生後6週間で急速に体重が増え始め、生後12週までに肥満になった。マウスの体内の脂肪組織や肝臓などに脂肪が蓄積していることを確認できた。また、欠損マウスは、対照群の正常マウスと比べて1日当たりの摂食量が約2倍に増えていた。

山本教授らはXRN1欠損マウスの過食の原因を調べるために、食欲を抑えるホルモンである「レプチン」の血中濃度を測定した。すると、欠損マウスは正常マウスと比べて有意に高い値となっていた。レプチン量が正常であればマウスは食欲を感じなくなるはずで、欠損マウスはレプチンの濃度が高くなってもその効果が表れず、食欲が抑制されないという「レプチン抵抗性」があることが判明した。

このほか、XRN1欠損マウスは加齢に伴って血糖値を下げるホルモンであるインスリンの値がレプチン値の上昇とともに著しく高くなることも確認できた。欠損マウスはレプチンに反応しなかったために摂食行動を続けて血糖値が上がり、その結果インスリン値も上がったとみられるという。

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    「XRN1」というタンパク質が、脳内で食欲や代謝を制御するのに重要な役割を果たしていることを明らかにした研究のイメージ図(沖縄科学技術大学院大学提供)

研究グループはさらに、エネルギー消費量の低下と肥満の関係も調べた。マウスを酸素消費量が測定できる特殊なケージに入れて実験した。その結果、6週齢のマウスは正常マウス、欠損マウスともエネルギー消費量に差はなかった。しかし正常マウスは最も活動的になる夜間に炭水化物を燃焼し、活動量の少ない日中に脂肪を燃焼するという切り替えができていたが、欠損マウスは昼夜問わず脂肪を効率的に消費できず、炭水化物を主なエネルギー源としていたことが分かったという。

栁谷研究員は「レプチン抵抗性がどのように生じるのかを完全に解明することで最終的には肥満に対する(分子レベルの)標的療法につながるかもしれない」としている。成果は米科学誌「アイ・サイエンス」に掲載され、沖縄科学技術大学院大学が15日に発表した。

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