広島大学、京都大学(京大)、名古屋大学(名大)、東京大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)の5者は10月22日、「ポリマー半導体」の化学構造を少し組み替えるだけで、電荷となるπ電子が主鎖に沿って高度に非局在化し、半導体性能の1つである電荷移動度が20倍以上向上することを発見したと発表した。

同成果は、広島大大学院 先進理工系科学研究科 応用化学プログラムの尾坂格教授、同・三木江翼助教、同・井口景太郎大学院生、京大 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点の深澤愛子教授、名大 トランスフォーマティブ生命分子研究所の山口茂弘教授、名大大学院 理学研究科の早川雅大大学院生、東大大学院 新領域創成科学研究科の石井宏幸特任研究員、物質・材料研究機構の角谷正友主席研究員、JASRIの小金澤智之 研究員らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行する学術誌「hemistry of Materials」にオンライン掲載された。

ポリマー半導体は、有機物ながら半導体の性質を持つ材料であり、インク化することで印刷プロセスにより回路を形成できるため、有機トランジスタや有機薄膜太陽電池などといったプリンテッドデバイスへの応用が期待されている。しかし、その電荷移動度は、シリコンを中心とする無機半導体に比べて低いため、その向上方法の実現が求められていた。

ポリマー半導体には、ポリマー主鎖に沿った「主鎖内」とポリマー主鎖同士の重なりを介した「主鎖間」の2つの電荷輸送パスがあり、近年の研究から主鎖間の電荷輸送性は改善されてきており、この開発指針に基づく、さらなる電荷移動度の向上は頭打ちとなりつつあるというた、主鎖内の電荷輸送性については、開発指針(分子デザイン手法)が定まっていないこともあり、ほとんど行われていなかったという。

  • ポリマー半導体

    ポリマー半導体中における主鎖内および主鎖間の電荷輸送パス (出所:広島大Webサイト)

そこで研究チームは今回、主鎖内の電荷輸送性に着目してポリマー半導体の開発に取り組むことにしたという。具体的には、すでに研究チームが開発していたポリマー半導体「PBTD4T」のBTD部分を、京大と名大の研究チームが共同で開発していたSPという化学構造に置き換えた「PSP4T」となる。PBTD4TとPSP4Tは互いに化学構造が少し組み替わっただけの構造異性体の関係にある。

これらのポリマーを半導体層とする有機トランジスタが作製され、性能が調べられた結果、PSP4Tは2.5cm2/VsとPBTD4Tの0.1cm2/Vsに比べて文字通り桁違いに高い電荷移動度が示されたという。

詳細な解析の結果、PBTD4TとPSP4Tでは、ポリマー主鎖間の距離や秩序は同程度であることが判明したほか、いずれのポリマーも同様な炭素-炭素単結合と二重結合の繰り返し構造もまちまちだが、PSP4TはPBTD4Tに比べて、単結合と二重結合の長さの差が小さくなり、より1.5重結合性を帯びていることが判明。PSP4TはPBTD4Tに比べ、ポリマー主鎖上にあるπ電子が高度に非局在化していることが示されたという。

  • ポリマー半導体

    ポリマー半導体PBTD4T(左)とPSP4T(右)の化学構造。破線枠内がそれぞれBTDとSPの化学構造。これらは、BTD部位の青とSP部位の赤でハイライトされた化学結合が組み変わっただけで、同じ炭素-炭素単結合と二重結合の繰り返し構造を持っている (出所:広島大Webサイト)

さらに、PSP4Tのポリマー主鎖はPBTD4Tのそれよりも秩序度が高いことも判明。電荷が主鎖内を流れやすい構造を持っていることが示されたともするほか、ポリマー主鎖のバンド構造を計算したところ、PSP4TはPBTD4Tよりも最大で30倍も高い値を示し、これまでに報告されたポリマー半導体の中でも最高レベルの性能であることが示唆されたという。

  • ポリマー半導体

    モデル化合物の結晶構造および炭素-炭素間の結合様式と結合長。PBTD4T(左)とPSP4T(右)。PSP4Tのモデル化合物はPBTD4Tのモデル化合物に比べて、単結合と二重結合の長さの差が小さく(二重結合は長く、単結合は短く)、1.5重結合に近づいており、π電子がより非局在化することがわかった (出所:広島大Webサイト)

今回の成果は、ポリマー主鎖内の電荷輸送性の向上がまだ可能であることを示すものであり、今後のさらなるポリマー半導体の高移動度化が期待されるようになったと研究チームでは説明している。