東京大学(東大)は10月22日、パワー半導体の高い放熱性能の実現に向けて、異なる配向のグラファイト材を重ねて接合した「ヒートスプレッダ」を開発し、グラファイト本来の異方的な熱伝導を等方的に変換することに成功したこと、ならびに開発されたヒートスプレッダを用いてデバイスの放熱試験を実施したところ、900W/m-Kの熱伝導率を有する等方性材料と同等の性能を達成したことを発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 機械工学専攻の許斌特任助教、同・Liao Yuxuan特任研究員、方正隆特任助教、同・長藤圭介准教授、児玉高志特任准教授、同・塩見淳一郎教授らの研究チームによるもの。詳細は、物理学全般を扱ったオープンアクセスジャーナル「Cell Reports Physical Science」にオンライン掲載された。

パワー半導体は電力制御や変換などで活用されるため、そのエネルギーの一部が熱となり、放熱の問題を解決することが求められる。より小型な機器での熱問題を解決するために、より高い等方性熱伝導率を持つヒートスプレッダの開発が求められている。

そうした課題解決の有力な材料の1つとして比較的安価で面内の熱伝導率が高いグラファイトが注目されているが、面外のc軸方向の熱伝導率が低いため、これまでは応用が制限されてしまっていたという。

応用先を拡大するためには、グラファイトの高い熱伝導率を活かしながら、等方的な熱伝導体に変える必要があるため、研究チームは今回、高配向グラファイトを用いて3次元空間での熱流束制御を行い、局所的な熱源からの等方的な放熱を実現するヒートスプレッダの開発を試みることにしたという。

具体的には、ブロック状のグラファイト材を3次元的に組み立てたさまざまな構造を考案。有限要素法を用いてそれぞれの放熱性能を解析、比較したところ、直感的に優位性を有すると考えられていたグラファイトの2次元面での放射状配置よりも、3次元空間内で軸方向が異なる2つのグラファイト材を重ねた構造の方が1.5倍以上の放熱性能を有することが明らかとなった。

また、3次元構造の寸法が理論計算によって最適化された結果、最大で1100W/m-Kの等方的な熱伝導率の材料に相当する放熱性能が得られることが理論上示されたという。

さらに、実験的に銅を結合層として、グラファイト/銅マイクロ粒子/グラファイトのサンドイッチ構造を作製し、評価を行ったところ、熱伝導率が900W/m-Kの等方性材料と同等の放熱性能を有することが確認されたという。

今回の研究で開発された3次元の熱流束制御により実現された、等方的で高い放熱性能を有するグラファイト・銅複合ヒートスプレッダおよびその方法論は、従来の熱マネージメントの限界を押し上げることで、次世代のパワー半導体の高集積化やシステムの費用対効果の向上に貢献することが期待できると研究チームでは説明している。

  • グラファイト

    (a)デバイス放熱の模式図。(b)開発されたグラファイト材からなる3次元構造。(c)放熱時の温度分布 (出所:東大プレスリリースPDF)

また研究チームでは現在、熱接合の高度化、機械学習を利用したマテリアルズ・インフォマティクスによる最適化にも取り組んでいるとしており、ヒートスプレッダのさらなる性能向上を通じて、より多くの産業応用と学術分野への波及効果が期待できるとしている。

  • グラファイト

    (a)グラファイトの2次元面内での放射状配置。(b)同じく放熱時の温度分布 (出所:東大プレスリリースPDF)