東京大学(東大)は10月21日、独自開発の三次元位置検出光学顕微技術を用いて、モデル生物である繊毛虫「テトラヒメナ」が右手系の回転をしながら右螺旋を描くように遊泳していることを定量したこと、ならびにカルシウムイオン(Ca2+)の刺激により螺旋遊泳パターンが揺らぐことを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の丸茂哲聖大学院生、同・山岸雅彦特任研究員、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻 附属先進科学研究機構/生物普遍性連携研究機構の矢島潤一郎准教授らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の生物科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Biology」に掲載された。
モデル生物として広く扱われる「テトラヒメナ」は、螺旋を描くように遊泳することが知られていたが、細胞体が小さく透明であるうえに遊泳が速いことから、螺旋の方向を含む三次元遊泳パターンの詳細な報告はなされていなかったという。
そこで研究チームは今回、独自開発の三次元位置検出光学顕微技術を用いて、細胞内に直径200nmの蛍光ビーズを取り込ませたテトラヒメナの遊泳をイメージングし、その軌跡の三次元定量を実施。その結果、テトラヒメナが右螺旋を描くように遊泳していることが判明したという。
また、細胞内に2輝点を持たせた個体に対し、それぞれの輝点の軌跡をイメージングした結果、右螺旋を描いて遊泳する際、細胞体自体が右回転していることも判明。加えて、繊毛打が逆転するような脱分極性のCa2+刺激を与えた上で、変化した遊泳パターンの三次元イメージングを実施したところ、後進性の右螺旋遊泳や前進性の左螺旋遊泳といった特殊な遊泳パターンを示すことも見出されたという。
この結果について、脱分極性の刺激による繊毛打の方向変化は、順方向・逆方向を完全にスイッチするものというよりは、むしろ連続的に変化しうるものであり、繊毛打方向の変化が繊毛虫の遊泳パターンを決定している可能性が示唆されたと研究チームでは説明している。
今後、実際の繊毛運動と遊泳パターンの両方がイメージングされることで、1細胞の遊泳メカニズムが明らかにされていくことが考えられるとするほか、遊泳システムに内在する運動の非対称性を生む原因を探ることで、生命体のあらゆる階層で生存に適したキラリティが選択される仕組みの起源にも迫れる可能性があるとしている。