骨が欠損した部位に常温、大気圧の条件で生成したプラズマを直接照射すると、骨の再生が促されることを実験で明らかにした、と大阪市立大学の研究グループが発表した。骨折などの治療期間の短縮やけがで骨を大きく欠損した場合の効率的な治療に、役立つ期待がある。
プラズマは固体、液体、気体のいずれでもない、物質の第4の状態。気体に高エネルギーを加えることで分子が分かれたり、原子から電子が離れたりして活性化した状態となって生じる。生成には真空や超高温が必要だったが、科学技術の革新で大気圧、常温でもできるようになり、各分野で研究や利用が進む。「低温大気圧プラズマ」と呼ばれ、医療では、材料が体内で馴染むようにする表面処理や滅菌に利用されるほか、直接照射や、プラズマを照射した溶液を使う方法で生体への応用も一部で始まっており、利用拡大に向け研究が活発化している。
こうした中で研究グループは、欠損した骨に低温大気圧プラズマを照射すれば、再生を促すのではないかと考えた。独自の調整を施したペン型のプラズマ発生装置を開発し実験した。ウサギの尺骨(手首から肘にかけての2本の骨の1本)の途中を1センチ切り取り、その部分にプラズマを5分または10分、15分照射した個体と、比較のためプラズマを含まないガスを照射した個体について、骨の再生の経過を比べた。これら4通りの作業を5匹ずつに行った。
その結果、プラズマを10分照射した場合で術後8週間に骨の再生量が最も多く、プラズマを含まないガスの約1.5倍となった。CT画像からは、欠損部分が埋まった様子を確認。低温大気圧プラズマの照射により、骨の再生が促されることを発見した。研究グループは、骨の組織が水に馴染みやすくなることが要因の一つとみている。
研究グループのプラズマ装置は、ヘリウムガスをプラズマ化してできるヘリウムイオンと電子を利用するもの。これらが大気中の酸素や窒素と反応し、活性酸素や活性窒素を生成する。
低温大気圧プラズマの利用可能性を、骨再生に拡大する展開となった。整形外科や歯科口腔分野、脳神経外科での開頭手術後の頭蓋骨の修復などで実用化すれば、骨を効率よく修復し、治癒を早めると期待される。
研究グループの大学院工学研究科の呉準席(オ・ジュンソク)教授(プラズマ工学)は「人体に直接照射できる装置の開発に向け、良い研究となった。この技術の再生医療での活躍が期待される」。大学院医学研究科の豊田宏光准教授(整形外科学)は「高齢者は骨粗しょう症で骨折しやすいが、早く確実に治したい。若い人も治癒が早まれば、職場復帰などが早くなる。この研究は非常に良い医療技術になる。どんな活性種が良いのかなど、まだまだブラックボックスの点があり見極めていきたい」と述べている。
成果は米科学誌「プロスワン」に11日に掲載され、大阪市立大学が18日に発表した。
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