東芝は10月22日、量子暗号通信システムの主要構成機能である、量子暗号鍵の送信、受信とそのための乱数発生について、従来の光学部品による実装に替えて光集積回路化した「量子送信チップ」、「量子受信チップ」、「量子乱数発生チップ」を開発し、これらを実装した「チップベース量子暗号通信システム」の実証に成功したことを発表した。
量子暗号通信は、量子コンピュータ時代におけるセキュリティの脅威に備えた新たな安全対策として世の中に広く普及することが期待されており、その関連市場は、2035年度には約200億ドル(約2.1兆円)と見込まれているという。
量子暗号通信の活用を、社会インフラやプラントのIoT機器によるモニタリングや工場間での設計・製造データの共有における産業情報の秘匿化の領域まで拡大させるには、システムの小型化、軽量化、低消費電力化を実現することが不可欠だが、現在製品化されている量子暗号通信システムは、レーザーやビームスプリッタといった光学部品で実装した複雑な光回路で構成されており、小型化、軽量化、低消費電力化に課題があったという。
東芝が今回実証に成功したと発表したシステムは、光集積回路を用いることで、多くの光学部品を複雑に組み合わせて構成していた従来のシステムと比較し、小型化を実現。光集積回路は標準的な半導体製造技術を用いて量産できるため、大規模な量子暗号通信システムだけではなく、より多くのシステムの構築が可能になるという
同システムは、東芝欧州社ケンブリッジ研究所において、開発・実証を実施。試作したチップの大きさは、量子送信チップが2mm×6mm、量子受信チップが8mm×8mm、量子乱数発生チップが2mm×6mmと小型で、標準的な半導体製造技術を用いて1枚のウェハ上に数百のチップを一度に製造することで、量産することが可能だという。
同社はこれらの3つのチップを用いて、50kmの光ファイバによる長距離の暗号鍵配送を実証。また、生成した暗号鍵を市販の100Gb/sの暗号化機器に配送することで、データを暗号化し、リアルタイムに暗号通信を行うことに成功したとしている。
また、都市内通信を想定した10kmの光ファイバを用いた実験では、暗号鍵の生成速度は5.5日間の連続動作の平均値で470kbpsに達し、これはビデオ通話での活用が可能なレベルだという。
試作したシステムは、標準的な通信インフラに実装できる、1Uサイズのラックマウントモジュールに収まる大きさを実現しており、光学部品で構成された従来のシステムより、小型・軽量化および低消費電力化を実現したとのことだ。
同社は、このシステムの実用化により、大規模なシステム構築が必要な金融分野や医療分野に限らず、社会インフラ関連のプラントのIoT機器によるモニタリングや、工場間での設計・製造データの共有における産業情報の秘匿化といった領域まで、量子暗号通信の適用範囲を拡大することが見込めるとしており、同成果の2024年の実用化に向けて研究開発を進め、安心して情報をやり取りできる情報社会の構築に貢献していきたいとしている。