横浜市立大学(横市大)は10月20日、質量分析計を利用したプロテオーム解析技術を用いて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者の予後と密接に関連する血清タンパク質を明らかにしたと発表した。
同成果は、横市大 先端医科学研究センター プロテオーム解析センターの木村弥生准教授、同・梁明秀センター長(同・大学院 医学研究科 微生物学 教授兼任)、同・大学院 医学研究科 救急医学の竹内一郎教授、同・臨床統計学の山本紘司准教授、同・免疫学の田村智彦教授、同・呼吸器病学の金子猛教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
新型コロナの感染患者の約20%が呼吸不全を起こして酸素吸入が必要となり、さらにその一部は重篤な呼吸不全となるため、人工呼吸管理を含む集中治療が行われることになる。それでも不十分な場合、体外式膜型人工肺(ECMO)の装着が必要となることがある。そのため、新型コロナでは疾患の進行を正確に予測し、限られた医療資源を必要とする患者に配分することが重要になると考えられるようになってきた。
そこで研究チームは今回、質量分析計を利用したプロテオーム解析技術により、新型コロナ重症患者の入院時血清において予後と密接に関連して増減する血清タンパク質の探索を実施。その結果、重症患者のうち、予後不良の患者と予後良好の患者では、27種類のタンパク質の量が異なることが確認されたという。
また、その27種類のタンパク質について、データに関わる分子を可視化できるソフトウェアを用いた解析を行ったところ、15種類はインターロイキン1(IL-1)、IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインシグナルによって制御されている可能性があることが判明。予後の不良と良好の患者での量的な違いは、全身の炎症反応や心血管障害に関与していることが示唆されたとする。
さらに抗原抗体反応を利用して微量生体物質を定量する「ELISA法」により、血清中タンパク質濃度を測定したところ、「CHI3L1」と「IGFALS」という2種類のタンパク質が重症患者の高感度な予後マーカーとして機能することが示されたとするほか、既存のバイオマーカーよりも疾患の予後に関連していることもわかったとしている。
なお、研究チームでは今回の成果について、予測される予後に基づく、限られた医療資源の適切な配分や、ハイリスク患者に的を絞った治療の提供に役立つと考えられるとしており、今後、サンプル数を増やした、より大規模なサンプルサイズによる前向き研究が必要となるとしている。