熊本大学は10月19日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する「酸化グラフェン」の高い吸着力と抗ウイルス効果を発見し、そのウイルス不活性化のメカニズムを実験的に明らかにしたと発表した。
同成果は、熊本大大学院 先端科学研究部の速水真也教授、同・大学院 自然科学教育部の福田将大大学院生、同・ヒトレトロウイルス学共同研究センターの池田輝政准教授、同・大学院 生命科学研究部の福田孝一教授、同・産業ナノマテリアル研究所のSaidul Islam特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、ナノマテリアルの追うように関連する工学、化学、物理学、生物学などを扱う学術誌「ACS Applied Nano Materials」にオンライン掲載された。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策に向け、ウイルス不活性化機構の解明や、優れた抗ウイルス材料の開発が求められているが、そうした素材の1つとして、高い表面積とユニークな化学的・物理的特性を持つ「ナノマテリアル」が注目されている。
中でも酸化グラフェンは、容易かつ安価に製造することができ、人体への毒性が低いため、次世代の生物活性材料として有望視されており、研究チームでは今回、そんな酸化グラフェンの新型コロナに対する抑制活性の評価と、その作用の仕組みを調べることにしたという。
その結果、酸化グラフェン分散液に新型コロナウイルスを混ぜて60分間培養した後の分析から、ウイルスの感染性を98%まで減少させることが確認されたほか、その抗ウイルス活性の作用の仕組みとして、スパイク(S)タンパク質が消失した状態の新型コロナが吸着していることが確認されたとする。
また酸化グラフェン存在下では、時間依存的にSタンパク質およびヌクレオカプシド(N)タンパク質の量が減少することも判明しており、これらの結果から、酸化グラフェンの抗ウイルス活性は、酸化グラフェンが新型コロナを吸着した後、ウイルスタンパク質を分解しているためであることが示されたと研究チームでは説明している。
さらに、酸化グラフェン分散液を塗布したフィルターについてのウイルス活性評価も行ったところ、酸化グラフェンを含まないものに比べて不活性化が高いことが確認されたという。
今回の結果を踏まえ、研究チームでは、酸化グラフェンは、コーティングされたマスクやフィルターへの応用など、さまざまな製品に抗ウイルス性を付与することが期待される物質であり、今後は、酸化グラフェンを用いた不織布やフィルターの開発を進めていくことで、ウィズコロナ/ポストコロナ社会の基盤となる抗ウイルス製品の実現につなげていきたいとしている。