SK Hynixは2020年10月20日、IntelのNAND事業を中国の大連工場を含める形で90億ドルで買収する契約を締結したと発表したが、それから1年経った今も買収合併に関する中国の規制当局から許可が下りておらず、SK Hynixが掲げている2021年末までの手続き完了が果たせない可能性がでてきた。

中国当局以外の審査対象国である韓国、米国、EU、台湾、ブラジル、英国、シンガポールについては、2021年7月までに承認を得ている。

中国当局による承認が下りずに破談となった案件はすでに2016年のQualcommによるNXP Semiconductors買収といった例があり、この時は両者の契約上の期限切れとなり、2018年に買収契約が破談となっている。今回も中国当局の動向次第では、同じことが起こる可能性がある。また、半導体業界関係者の中からは、2020年に発表されたArmのNVIDIAによる買収についても、承認が下りない可能性があるのではないか、という声が聞こえている。

また、2021年8月には米国の対米外国投資委員会(CFIUS)が、中国のプライベートエクィティファンド「Wise Road Capital(智路資本)」が韓国のMagnaChip Semiconductorの買収について、「米国の国家安全保障上の危険性が確認された」として反対の立場を表明している。MagnaChipはこれを受け、CFIUSに再審議を要請しているが、米国政府が最終的にMagnachipの中国勢への売却を認めなければ、米中関係のさらなる悪化が懸念されるとともに、SK HynixのIntel NAND事業買収の進展にも影響を及ぼす可能性がある。

IntelのNAND買収がとん挫すると、キオクシアとの関係性にも変化の可能性

SK Hynixは、2021年末までに中国の承認が得られれば、まず70億ドルをIntelに支払い、IntelのSSD事業および中国大連工場の資産を自社に移転し、その後2025年3月に残りの20億ドルを追加で支払い、Intelの残りの資産を引き継ぐという流れを想定しているが、韓国半導体業界内部には、この資金をキオクシアに出資した3950億円分の株式をキオクシアのIPO時に高値で売り払い、捻出するのではないかという噂があった。

SK Hynixのイ・ソクヒ最高経営責任者(CEO)は4月、IntelのNAND事業買収とキオクシアへの投資は別で、投資資金の回収は考えていないことを語り、その噂を否定している。仮にキオクシアが無事にIPOを果たした場合、SK Hynixは契約により14.96%の株式を取得する可能性がでてくるが、Intel NAND事業買収をあきらめた場合、その取得割合を増やす可能性があるほか、将来のキオクシアの買収といった動きに発展する可能性があるという声も半導体業界の一部にある。しかし、SK Hynixはキオクシア側の合意がない限り、買収後10年間(2028年まで)15%を超える議決権を保有することはできない契約になっているとも言われており、もしそれが事実であるならば、上述のような動きはできないこととなる。

キオクシアについては、(旧SanDisk時代から)20年以上のパートナーである米Western Digitalがキオクシアに対して買収交渉を行っているという話もあり、仮にキオクシアの買収がなされた場合、SK HynixとWestern Digitalが手を組む可能性は否定できないと考えられる。