宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月14日、米国航空宇宙局(NASA)およびボーイングと共に、NASAが開発を進める低ソニックブーム実験機「X-59 QueSST(Quiet SuperSonic Technology)」の低ソニックブーム設計を検証する共同研究を開始したことを発表した。
超音速機は、超音速飛行時に発生する衝撃波に起因してソニックブームが生じるため、実際に超音速で飛行可能な区域は海上のみに限定されている。
ソニックブームは、地上の人には瞬間的な爆音として聞こえるだけでなく、急激な大気の圧力変動が激しすぎる場合、窓ガラスが割れるなど、物理的な被害が生じる可能性の懸念される場合がある。そのため、かつての超音速旅客機コンコルドも大西洋上を飛行する欧州~米国間という限られた空路にしか就航できず、また、その特殊な形状から乗客定員数も一般的なジェット旅客機と比べると少なく、採算がとれないといった問題などから引退することとなり、2021年現在、超音速旅客機は就航していない。
しかし、一般的なジェット旅客機は、亜音速のマッハ0.8前後で飛行するため、たとえば日本から欧米へ向かうと12時間以上もかかる。これを超音速旅客機が仮にマッハ1.6で飛行した場合、単純計算で6時間ほどとなり、経済効果などが期待されることとなるが、その実現にはソニックブームが小さくなる機体設計技術を実現させる必要がある。
国際民間航空機関では、2000年代初頭より陸地上空における超音速飛行を可能とするためにソニックブームの基準策定を進めており、JAXAは研究開発成果を通じてその活動を支援してきた経緯がある。今回の3者の取り組みは、それぞれが培ってきた技術、知見を融合、深化させることで、今後のソニックブームの国際基準策定への貢献につながるものだという。
具体的には、NASAが開発を進めるX-59の風洞試験模型をNASAとJAXA双方の風洞設備で試験し、ソニックブーム特性に関するデータを取得・交換して相互検証を実施するとしている。それと同時に、ボーイングとJAXAで当該模型の数値流体(CFD)解析を実施し、3者によるCFD結果と風洞試験結果の比較検証を行うという。
獲得されたデータとCFD解析の結果などにより、NASA側はX-59の低ソニックブーム設計を高い精度で検証することが可能となる。またJAXAとしても、NASAの風洞試験結果やボーイングのCFD解析結果を利用することで、ソニックブーム推算技術の高度化が可能となるというメリットがあるとしている。
JAXAは、これまで、経済性の観点から「空気抵抗を下げて燃費をよくする技術」と、環境適合性の観点から「ソニックブームが小さくなる機体設計技術」という、超音速機技術の研究開発を実施してきており、コンコルドと比較して、空気抵抗に関しては約13%の低減を実現できる技術を、ソニックブーム強度に関しては半減できる技術をそれぞれ実証済みだという。
なお、JAXAでは、引き続き、国内外の関係機関と連携し、超音速旅客機の実現に向けた課題解決に、グローバル・パートナーシップで取り組んでいくとしている。