日立製作所は10月11日から15日まで、オンラインイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2021 JAPAN」を開催している。4日目の講演に、日立ソリューションズ・クリエイト 営業統括本部 DX推進センタ ソリューションマーケティング部 部長代理の中島佐奈江氏が登壇し、同社が自社開発した仮想オフィスツールや同ツールの社内導入実験結果を紹介し、在宅勤務における課題解決のためのポイントを説明した。
中島氏は冒頭、「仮想オフィスはこれからの働き方を強力にサポートする可能性を秘めている。しかし、コミュニケーションだけでは不十分であり、日本企業のワークスタイルに合わせた検討が必要だ」と語った。
コロナ禍以前の日本は出社型が主流だった。厚生労働省の2018年の発表によると、アメリカのテレワーク導入率が85%だったのに対し、日本のそれはわずか19.1%。当時から、働き方改革の推進が声高に叫ばれていたものの、日本企業の対応は世界と比較すると遅れをとっていた。
しかし、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が状況を一変させた。東京都が発表した調査結果によると、2020年3月に24.0%だったテレワーク実施率は、4月には62.7%まで上昇。多くの企業が急激な変革に対応し、インフラ環境の整備を進めた。
同社も例に漏れず、2020年4月より全従業員が原則在宅勤務となった。しかし、同社が従業員を対象にした2020年11月の調査では、5割を超える従業員が「コミュニケーションが足りない」と回答した。形の見えないコミュニケーションが初めて課題として社内で認識された。
「コミュニケーション不足の原因は、オフィス、エレベーター、社員食堂、喫煙所などにおける雑談といった偶発的なコミュニケーションの喪失だった。電話やチャットでのコミュニケーションは意外とハードルが高い」(中島氏)
コミュニケーションが阻害される要因は、ツールの未整備だけではなく、「自然に話せる場」の不足であると考えた同社は、Microsoft Teams を活用した仮想オフィスを構築した。従業員約400人を対象に2021年5月から約2カ月間実証実験を実施し、コミュニケーションの課題に対する効果と有用性を評価した。
この仮想オフィスには、「360 度パノラマビュー」と、コミュニケーションと仕事の起点となる「ワークボード画面」が実装されている。
「360 度パノラマビュー」は、画面上にオフィスの写真や従業員のアイコンを表示し、利用者はPC上で実際のオフィスと同じ風景のフロアを歩き回ることができる。話したい相手の顔をクリックすることで、Teamsのビデオ会議システムが起動する。
これにより相手が今、忙しいかどうかを一目で確認することが可能で、話しかけていいタイミングが分かる。さらに、吹き出しコメントにより現在の物理的・心理的状況を表示することで、心理的安全性の確保や会話のきっかけにもつながる。
自身のアイコンをクリックすると、「ワークボード画面」に切り替わり、チームのスケジュールやステータスが表示され、メンバーの状況を直感的に把握することが可能。
実証実験後の社内調査によると、77%の従業員が「ほぼ毎日利用」しており、66%が「また利用したい」と好意的な意見を示したという。82%が仮想オフィスを使うようになってから孤独や寂しさが「改善された」と回答しており、「並んでいる顔アイコンとコメントを見るだけで心の距離が縮まった」といったコメントが多く寄せられたという。
一方で、「チームで共有する掲示板がほしい」「会議室や喫煙所など、集まって会話をするエリアがほしい」「オフィスへの出社状況などが見たい」「始業・終業時のチャイムがほしい」といった改善要望があったといい、今後、機能を拡張し10月から全社展開を実施する方針だ。
中島氏は、「今後、日本企業に必要な新しいワークスタイルは、在宅も出社も意識する必要がないハイブリッドワークだ」と強調し、講演を締めくくった。